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研究開発の継続・撤退を決める評価設計:「失敗を許す」と「成果を問わない」の間に必要なこと

研究開発投資の判断。成果を待って継続。投資を打ち切る

研究開発の予算会議では、「短期の利益を求めれば新しいものは生まれない」と「いつまで成果を待てばよいのか」がぶつかる。

どちらにも理由はある。ただし、三年か五年かを決める前に、二つの時間を分けたい。進展を確認する間隔と、商業的な成果を求める期限である。頻繁に進展を確認することは、毎回黒字を要求することと同じではない。

この記事の目次
  1. 早期の失敗を罰すると、探索が変わる
  2. 売上の前に、何が分かれば投資判断が変わるか
  3. 続ける理由と、止める理由を同じ紙に書く
  4. 継続と撤退の間に、小さな追加検証を置く
  5. 研究者を守ることと、案件を守ることを分ける

早期の失敗を罰すると、探索が変わる

EdererとMansoの研究は、仮想的な店舗経営の課題を使い、報酬制度によって探索行動がどう変わるかを実験した。初期の失敗を許容し、後半の成功に報いる制度では、固定給や通常の成果連動型の制度より探索が増え、優れた戦略を発見しやすかった。早期打ち切りの脅威は探索を弱めた。Ederer & Manso・著者公開稿

これは管理された実験での因果的な証拠だが、期間は実験内の意思決定回数である。「企業の研究開発を五年間評価してはいけない」という暦年の答えには変換できない。

現実の研究活動を扱ったAzoulayらの研究では、米国の生命科学分野で、HHMIの支援を受けた研究者と、同様の実績を持つNIH支援の研究者を比較した。分析では、前者で高被引用論文が生まれる率が高く、新たな研究方向への探索を示す変化も見られた。Azoulay, Graff Zivin & Manso・著者公開稿

ただし、支援制度には評価の期間だけでなく、自由度や更新方針など複数の違いがある。研究者の選抜も無作為ではない。長く待つという一要素の効果を切り出した結果でも、企業の利益を測った結果でもない。

二つの研究は同じ研究者が一部関与しており、完全に独立した追試の組み合わせではない。また、初期の探索を促すことと、長く続けた案件の採算を保証することは別である。ここから考えるべきなのは、待つ年数の正解よりも、評価が研究者に何を選ばせるかである。

売上の前に、何が分かれば投資判断が変わるか

「失敗を許せば革新が増える」という解釈には、別方向の研究もある。DanneelsとVestalの米国製造業106社を対象とする縦断研究では、失敗を通常のこととして許容するだけでは製品の革新性との有意な関係は確認されず、失敗を意図的に分析することが革新性と関連した。その関連には、建設的に意見をぶつけられる組織風土も関わっていた。Normalizing vs. analyzing, 2020

これは、先の実験が誤りだったという意味ではない。実験は報酬制度が個人の探索に与える影響を、こちらは企業の失敗への対処と製品の革新性を扱っている。許容が探索の入口を作っても、経験を知識へ変える作業がなければ成果に届かない、という解釈が考えられる。ただし、研究をつないだこの説明自体は実証済みの因果連鎖ではない。

以下は研究を踏まえた実務上の提案である。探索段階では、売上だけでなく、重大な不確実性が減ったかを確認する。

例えば新しい検査技術なら、必要な精度を出せるか、実際の環境で再現するか、想定費用で運用できるか、といった問いがある。精度の壁を越えられなかった実験でも、適用可能な条件が絞れれば、次の投資判断に役立つ場合がある。

ただし、失敗をすべて「学び」と呼べば、何年でも継続できてしまう。何を検証し、どの結果なら方針を変えるかを、実験前に決めておきたい。同じ前提のまま似た検証を繰り返しているなら、時間を与える理由を改めて問う必要がある。

開発段階へ進めば、再現性、品質、量産や運用の費用が判断材料になる。事業化段階では、顧客の利用、支払い意思、継続性などを確かめる。各段階を同じ指標で測ると、探索を早く切りすぎたり、事業化の失敗を研究の不確実性で説明し続けたりしやすい。

続ける理由と、止める理由を同じ紙に書く

評価の期間を決めるには、何を観測する必要があるかから逆算する。季節をまたぐ耐久性を確認する実験と、短期間に多数の条件を試せるソフトウェアの検証では、同じ期間で得られる証拠が違う。年度末という社内の区切りだけでは、技術上の意味を持つとは限らない。

一方で、長い実験だから途中確認が不要になるわけでもない。計測が想定どおり動いているか、試料や対象条件が妥当か、完了までの費用が増えていないかは、最終結果がなくても確認できる。成果がまだ出ないことと、計画の妥当性を何も説明できないことは区別したい。

実務上は、次のように評価を分けると議論が具体的になる。これは標準規格や研究で検証された万能な区分ではなく、投資会議の整理案である。

図解評価する段階に合わせて、必要な証拠を変える
探索

仮説が成立する条件は何か。どの前提が否定されたか。直近の売上だけで評価しない。

開発

再現性・要求性能・実装や運用の費用はどうか。一度の成功デモで完成扱いしない。

事業化

実際に使われ、支払われるか。収支が続くか。技術の優秀さだけで継続しない。

前提が崩れたら、段階・予算・期限を見直す

本文の投資会議の整理案。進展を確かめる間隔と、商業成果を求める期限は別です。一律の年数や、後戻りを禁じる標準工程を示すものではありません。

この区分は後戻りを禁止するものでもない。開発中に重大な前提が崩れれば探索へ戻る場合がある。そのときは、同じ期限と予算で完成できることにせず、投資判断を更新する必要がある。

予算の継続提案には、次の判断に必要な証拠、それを得るまでの費用と期間、得られなかった場合の選択肢を含める。これは定期的に実験の成功を義務付けるという意味ではない。計画の見直しに必要な情報を明確にするという意味だ。

同時に、市場や資金の制約も見る。技術が完成する可能性があっても、顧客の課題が変わったなら、同じ計画を続ける価値は変わる。反対に、初期売上がなくても、重要な技術上の不確実性が解消されているなら、単年度の利益だけで止めるのは粗い判断になる。

継続と撤退の間に、小さな追加検証を置く

架空の例として、新しい検査装置が研究室では要求精度を満たしたものの、顧客の現場では振動の影響で精度が落ちたとする。「研究は成功したから量産へ進む」も、「現場で失敗したから撤退する」も、この時点では判断が粗いかもしれない。

振動の条件を絞った追加試験により、低費用の対策で解決できるのか、根本的に用途が合わないのかを判別できるなら、その試験には意味がある。逆に、何を試しても次の判断が変わらないなら、検証を続ける説明は弱い。

例えば、追加試験に200万円、本開発に2,000万円かかるという仮定を置く。試験を先にすることで、用途に合わない場合の本開発を避けられる可能性がある。ただし「200万円で2,000万円節約」とは言えない。試験結果の信頼性、適用できる可能性、試験による遅延の損失を考慮する必要がある。目的は追加費用を正当化することではなく、大きな投資の前に判断が変わる情報を得ることである。

撤退する場合も、獲得した技術や測定方法に別用途があるかは検討できる。ただし、別用途の可能性を並べるだけで予算を自動延長しない。誰が使い、何を確かめれば新しい投資を決められるかを再び明確にする。

研究者を守ることと、案件を守ることを分ける

予算を止めることが、担当者の失敗認定と常に結びついていると、悪い結果を早く報告する動機を弱めるおそれがある。そこで、事前に合意した検証を適切に実施し、不成立を早く明らかにした行動と、計画を説明せず先延ばしにした行動を分けて評価する設計が考えられる。

早期打ち切りの脅威が探索を抑えるという実験結果を、会社に撤退を禁じる根拠にする必要はない。案件の継続判断と、人の誠実な検証行動への評価を切り分けることが、実務上の検討点になる。ただし、この具体的な人事制度の効果まで今回の研究で確認されたわけではない。

研究開発を何年待つかに、一律の答えは置けない。次の評価会議で問いたいのは、「前回より何が分かり、次に何が分かれば判断を変えるのか」である。時間を与える根拠が、そこに表れる。