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「現場では使えない」に耳を傾ける組織改革 反対意見から設計の欠陥と移行負担を見つける

組織改革への反対意見。計画を変える。説明して進める

新しい顧客管理システムを説明すると、ベテラン社員が「現場では使えない」と反対した。推進担当者には、慣れたやり方を手放したくないだけに見える。

しかし、話を聞くと、特殊な契約条件の記録欄がなく、従来の台帳も残す必要があるという。仮にそうなら、その反対は単なる気分ではなく、二重入力や引き継ぎ漏れへの懸念かもしれない。

これは架空例である。反対する側がいつも正しいわけではない。それでも「抵抗勢力」と名付ける前に、何に反対しているのかを分ける価値がある。

この記事の目次
  1. 不安、不同意、非協力を一つにしない
  2. 自分の利益だけを守っているとは限らない
  3. 反対意見を、確かめられる問いに変える
  4. 全員の賛成を待つ必要はない
  5. 同じ「使えない」でも、対応は四つに分かれる
  6. 試行の成功を、協力的な人だけで判断しない

不安、不同意、非協力を一つにしない

Oregの2006年の研究は、組織の大きな変更に対する反応を、感情、認知、行動の側面から検討した。防衛産業の一組織の従業員177人を調べ、個人の傾向だけでなく、組織の状況も変更への態度と関連していた。単一組織の調査なので因果を断定できないが、反応を性格だけで説明する見方には無理がある。Oreg, 2006

実務に引き寄せれば、改革の方向に賛成していても、自分が習得できるか不安な人はいる。目的には反対でも、決定された手順を守る人もいる。作業が進んでいない場合も、非協力なのか、教育時間や権限が足りないのかで対応は変わる。

同じ「抵抗」という言葉でまとめると、説明、支援、設計変更のどれが必要か分からなくなる。

説明を増やせば抵抗が減るとも限らない。Oregの調査では、情報の多さと一部の抵抗の側面に、予想と逆向きの関連が見られた。これは情報を隠すべきだという因果的な証拠ではない。不利益を理解したから反対が明確になる、といった可能性も含めて考える必要がある。Oreg, 2006

自分の利益だけを守っているとは限らない

一つの企業の調査だけに頼らず、研究全体の見取り図も見ておきたい。Oregらの2011年のレビューは、1948~2007年に発表された研究から条件を満たす79の量的研究を整理した。反応に関わる要因として、受け手の特性や組織の状況に加え、変更の進め方、内容、予想される利益・不利益を区別している。効果量を一つにまとめて特定の手法の優位を示したメタ分析ではない。Oreg, Vakola & Armenakis, 2011

この整理を実務に使うなら、説明が悪いのか、変更内容が悪いのかを分けて考えたい。内容そのものが現場の制約に合っていないなら、説明会の回数を増やしても欠陥は消えない。逆に、業務上の利点があっても、意思決定の過程が不透明なら別の不信が残り得る。ひとつの原因だけを探すと、対策を取り違える。

JacobsとKeeganの研究は、警察組織における26の大規模な計画的変革について、23件の詳細なインタビューを分析した。受け手は自分への影響だけでなく、同僚や組織への影響も考えて変革を評価していた。質的研究であり、反対意見の何割が合理的かを推定したものではない。Jacobs & Keegan, Ethical Considerations and Change Recipients’ Reactions

この知見から得られる視点は、自分に利益があれば賛成するはずだ、と決めつけないことである。新制度で自分の仕事が軽くなっても、他部署へ負担を押し付けると考えれば反対する理由はある。

逆に、本人にとって合理的な反対が、組織全体にとって望ましいとは限らない。裁量や地位を失いたくないという事情と、顧客に不利益が生じるという指摘は、判断の材料として区別する必要がある。

反対意見を、確かめられる問いに変える

以下は実務上の提案である。「使えない」という反対には、どの業務のどの場面で、誰に、どんな不利益が出るかを尋ねる。そのうえで、実際の業務例を使って確かめる。

冒頭の架空例なら、特殊な契約を一件選び、新システムだけで受注から引き継ぎまで行えるか試す。情報が欠けるなら設計上の問題として扱う。問題なく扱えるなら、操作習得や説明の不足を検討する。好みの対立に見えたものを、観察できる違いへ変えられる。

ただし、反対する人に検証を丸投げすると、通常業務に追加作業が積み重なる。検証の時間と担当を確保し、分かったことに応じて計画を変える余地を示すことが必要だ。これは参加すれば必ず成功するという研究結果ではなく、提案を実行可能にするための設計である。

全員の賛成を待つ必要はない

ただし、相談を受ける前に、変更できる範囲は明確にしたい。システムの刷新自体は決定済みなのか、導入順序や移行期間は変えられるのか、そもそも採用を再検討できるのか。この区別がないまま意見を集めると、参加者は決定に影響できると思い、推進側は周知のつもりだった、というずれが生じる可能性がある。

「意見をください」と広く募るより、「刷新は実施する。移行時期と例外業務への対応は、この検証で決める」と説明する方が、現場も何を指摘すればよいか分かる。合意形成とは、決定権の所在を曖昧にすることではない。

指摘を受け止めることと、すべてを採用することは違う。経営上の制約により、一部の不利益を避けられない決定もある。その場合は、何を採用し、何を採用しなかったか、その理由と負担への対応を説明したい。

反対が消えたことだけを成功指標にせず、新しい手順が実際に使われているか、品質や顧客対応がどう変わったか、別の場所へ作業を押し出していないかを見る。

同じ「使えない」でも、対応は四つに分かれる

冒頭の顧客管理システムの例をもう少し考えてみる。反対の言葉だけでは原因が分からないため、次のように仮説を分ける。これは診断の確定表ではなく、現場で確かめるための整理である。

図解「使えない」を、四つの確認先に分ける
「新しいシステムは使えない」
どの業務で、誰に、何が起きるかを確認
業務を処理できない

例外契約で検証 → 設計・適用範囲を見直す

習得できていない

支援を受ければ処理できるか → 練習時間・手順・相談先を整える

移行負担が大きい

旧作業と新作業が重なる時間を確認 → 二重運用の期限・通常業務を調整

権限・評価に不同意

失うものや不公平感を確認 → 決定理由の説明・役割や評価の再検討

本文の仮説整理。複数の原因が同時に存在する場合があります。発言者への評価と、指摘内容の妥当性は分けて判断します。

これらは排他的ではない。設計上の欠陥も、操作への不安も同時に存在し得る。また、権限への不満がある人の技術的な指摘が、すべて誤りになるわけでもない。発言者への評価と指摘内容の妥当性を分けて扱う必要がある。

個人面談で不安を聞くことは有用でも、入力欄の欠陥は面談だけでは直らない。反対に、研修資料を増やしても、新制度で責任だけが増える人の納得は得られないかもしれない。対応を選ぶ前に、何が障害なのかを具体化したい。

試行の成功を、協力的な人だけで判断しない

試験導入に慣れた担当者だけを集めれば、操作や例外対応を自力で補えてしまう可能性がある。その結果を全体へ広げる前に、普段の利用者、繁忙期の業務、扱いにくい案件でも成立するかを確かめる必要がある。

同じく、改善を指摘した社員だけに追加検証を集中させると、声を上げた人ほど仕事が増える。検証の負担は計画側が見積もり、通常業務との調整を行う。現場の協力を求めるなら、その時間をどこから確保するかも変革計画の一部である。

試行では、処理時間が短くなったかだけでなく、入力漏れや顧客への説明のやり直し、管理者が裏で補った作業も見る。表面上は新しい手順が回っていても、一部の社員の手作業で支えているなら、その負担を導入効果から除外してはいけない。

経営が採用しない指摘にも返答が必要だ。「費用が見合わないため今回は対応しない」「この条件を超えたら再検討する」と判断を残せば、次に何を観察すればよいか共有できる。すべてを受け入れずとも、議論を打ち切っただけの状態は避けられる。

変革を進める人が最初に確かめたいのは、社員の意欲の強さだけではない。「この計画で見落としている仕事は何ですか」という問いである。その答えを検証し、必要なら設計を変えられるかどうかが、意見聴取を実際の改善につなげる。