「全部重要だから同時に進める」を見直す。兼務だらけのプロジェクトを、成果が届く順番から組み直そう
新規事業、基幹システムの更新、データ活用。どれも重要なので、全部を今年度の計画に入れる。ところが、設計を判断できる人は同じ二人で、各案件の工程表にはその二人の名前が並んでいる。
この架空例で問題なのは、個々の案件の魅力ではない。同時に実行できるという前提である。投資計画には、何を選ぶかと同じくらい、何を今は始めないかが必要になる。
兼務には利点もある
複数のチームに所属すれば、別の案件で得た知識や人脈を使える可能性がある。専門家を一つの案件だけに専任させると、その知識を必要とする別の仕事が止まることもある。兼務を一律に悪とするのは早い。
Bertolottiらの2015年の研究は、イタリア企業の研究開発部門で、複数チームへの所属とチームの業績に逆U字型の関係を報告した。少なければ少ないほどよい、増やせば増やすほどよい、のどちらでもない。ただし一つの組織を対象とした関連であり、あらゆる企業に通用する最適な兼務件数を示した結果ではない。Bertolotti et al., Research Policy
知識が広がるという説明にも留保がある。Fodorらの2021年の推定課題を使った実験では、集団から個人への学習は確認された一方、複数チームを経験する条件が単一チームより有利だという仮説は支持されなかった。短い実験課題を企業の長期案件へ直接当てはめることはできないが、「兼務すれば学習が増える」という自動的な期待にも根拠が必要だ。Fodor et al., Frontiers in Psychology
二つの研究は測っている対象が違う。現場のチーム業績と、実験での個人の推定成績であり、投資収益率そのものを測ったものではない。また、有意な差がなかったことは、あらゆる条件で効果がないという証明ではない。結果を単純に多数決にせず、自社の兼務がどんな利益と負担を生んでいるかを確かめたい。
工数を割り振るだけでは、待ち時間が見えない
Zika-Viktorssonらの2006年の探索的研究は、複数案件を行き来する際に感じる断片化、中断、非効率を「プロジェクト過負荷」として扱った。単に長時間働くことと、同時並行の構造から生まれる負担を区別する視点である。知覚された負担の研究であり、会社の投資収益がどれだけ下がるかを算出したものではない。Project overload, 2006
ここからは実務への提案である。案件ごとの必要工数だけでなく、複数案件が同じ人の判断を待つ場所を探す。
例えば、担当者に週20時間の余力があり、四つの案件へ5時間ずつ割り当てたとする。これは計算上の配分であり、それぞれの案件が必要な日に判断を受け取れる保証ではない。案件Aの障害対応が優先されれば、案件Bの設計承認が遅れ、その後工程の担当者まで待つかもしれない。
そのため、兼務件数に加えて「未回答の判断依頼」「待ちが生じた日数」「他案件への対応で延期した作業」を見る。同じ三件の兼務でも、定型的な助言をする場合と、毎日仕様を決める場合では負担が違う。役割を無視して上限件数だけを決めても、混雑の原因は残り得る。
着手を遅らせる判断にも、比較が必要になる
同時並行の費用を具体的に考えてみる。以下は切替損失さえない単純な仮定で、実際の研究結果ではない。
ある専門家しか処理できない工程を、案件AとBがそれぞれ10日分必要としている。半日ずつ交互に進めれば、両方の工程が終わるのは20日目だ。Aを先に終えるならAは10日目、Bは20日目になる。投入する専門家の時間は同じでも、Aの便益を早く得られる可能性がある。
本文の単純化した仮定。専門家1人、各案件10日分、切替損失なし。専門工程の完了を示します。便益の前倒しには後工程が動けることが必要で、Bの期限によって適切な順序は変わります。
Aの完了後に1日2万円の追加便益が生まれ、ほかの待ち工程がないと仮定すれば、先行完了による10日分の差は20万円だ。ただし、Bに15日目の期限があれば、この順序は不適切かもしれない。Aの後工程が結局20日目まで動けないなら、専門工程だけ早く終えても便益は前倒しされない。
この例から分かるのは、「集中させれば必ず得をする」ことではない。工数の合計だけでは、成果が使える時点と、待たせた費用を比較できないということだ。案件単体ではなく、専門工程から利用開始までを一続きに見る必要がある。
案件を止めれば必ず投資効果が上がるわけではない。法令上の期限、顧客との約束、市場参入の機会など、延期にも費用がある。複数の技術案を並行して試すことが、早すぎる一本化を防ぐ場合も考えられる。
経営が比べるべきなのは、案件の評点だけではない。「全部を並行する案」と「一部を先に終える案」で、便益が生まれる時期、延期の損失、必要な専門家の時間がどう変わるかである。便益の見積もりには幅を持たせ、都合のよい一点だけを使わない。
試すなら、特定の専門家に依頼が集中する案件群で、新規着手を一時的に絞る。完了数、待ち時間、品質、先送りした案件の損失を追う。これは研究が保証する処方箋ではなく、自社の制約を確かめる試行である。
優先順位の表を、実行できる順番へ変える
延期と撤退も分けて扱う必要がある。今は人を割けない案件を止める場合、再開の条件と、待つ間に維持する情報を決めておく。担当者だけが覚えている状態で長く置けば、再開時に調査や判断をやり直す負担が生じ得る。停止したという事実だけでは、資源配分を改善したことにならない。
反対に、便益の前提が失われた案件を「一時停止」と呼び続けると、いつまでも候補に残る。需要があるのか、必要な技術が成立するのかといった前提を再確認し、再開する理由がなければ撤退として整理する。その際、過去に使った費用の大きさだけでは、追加投資の価値は決まらない。
限られた専門家を巡る調整を、各プロジェクトマネジャー同士の交渉に任せきりにしないことも大切だ。自分の納期を守ろうとするのは各担当者にとって合理的でも、会社全体に最も大きな便益をもたらす順番になるとは限らない。案件を横断して決める責任者が、優先度を変更した際の影響まで引き受ける必要がある。
優先度の高い案件を上に並べても、必要な人を確保できなければ計画にならない。実務では、案件ごとに「誰の」「どの判断が」「いつ必要か」を重ねてみるとよい。同じ人に依頼が集中する週が分かれば、開始日をずらす、決裁を委譲する、標準的な判断を文書化するといった選択肢が出てくる。
すべてを専任化する必要もない。毎日の実行を担う人と、節目だけ助言する人を分ければ、知識を共有する利点を残しつつ、実行担当の切替を減らせる可能性がある。ただし、助言者が実質的な最終承認者なら、名目上の配置を変えても待ちは消えない。役割の実態を見ることが欠かせない。
新しい案件を追加する際には、少なくとも次の比較を添えたい。これは研究で妥当性が確立された採点表ではなく、議論の欠落を減らすための整理である。
| 比較する案 | 確認する便益 | 見落としやすい負担 |
|---|---|---|
| 全件を並行する | 早期に着手できる、選択肢を保持できる | 専門家の判断待ち、完了の遅れ |
| 一部を先に終える | 便益を早く使える可能性 | 後回し案件の期限・機会損失 |
| 小さく検証してから選ぶ | 不確実性を減らして本投資を選べる | 検証自体の工数、検証待ちの長期化 |
「どれも重要だから全部開始する」という説明では、この比較が抜け落ちる。経営が順序を決めなければ、実際の順序は依頼の声の大きさや、その日の緊急対応で決まるかもしれない。それを担当者の調整能力だけで解決するのは難しい。
また、案件の完了数だけを増やす目標にも注意したい。小さく簡単な案件を優先すれば数は増えるが、重要な基盤整備が後回しになる可能性がある。完了した仕事が何に使われ、いつ便益を生んだかを合わせて確認する。
案件数は活動の量を示すが、それだけでは成果が届く時期は分からない。次の投資会議では、追加案件の説明を聞く前に、既存案件が誰の何を待っているかを確認したい。その一覧が、工程表より正直に実行能力を示すことがある。