WORLD PICKS
世界の事例から、仕事の見方を変える。
← 分類の記事一覧へ

値下げを断るだけでは価格競争から抜け出せない。顧客が追加で払う理由をどう確かめるか

顧客が選ぶ価格と価値。価格を下げる。違いを価値にする

競合より高いと言われるたびに、品質やサポートの良さを説明する。それでも最後は値引きになる。例えばこのような商談で、説明が足りないとは限らない。売り手が誇る違いを、その顧客が追加料金を払ってまで必要としていない可能性がある。

価格競争から抜けるという目標は、値下げを禁止することでは達成できない。顧客のどの仕事を改善し、その改善へ誰が予算を出すのかを特定する必要がある。

本稿では、満足と支払意思に関する研究を材料に、顧客が選択で示す価値と、売り手に残る利益の両方を確かめて、付加価値を有料化するか、提供範囲を絞るかを選ぶ方法を提案する。価格を上げれば利益が増えると約束するものではない。

この記事の目次
  1. 満足している顧客なら、高くても買うのか
  2. 機能の違いを、顧客の仕事の違いへ変換する
  3. 「いくらなら買いますか」の答えだけで作らない
  4. 同じ値上げでも、売り手の利益は逆転する
  5. 差別化を足すより、外す方がよい場合

満足している顧客なら、高くても買うのか

Homburg、Koschate、Hoyerは、顧客満足と支払意思の関係を実験で調べている。公開された研究稿には、ドイツの大学生が飲食店の場面を評価する実験と、学習用製品を使用する実験が含まれ、満足と支払意思の正の関係が報告されている。Do Satisfied Customers Really Pay More?・公開研究稿

品質や利用経験に価値があるという材料だが、企業購買で価格を何%上げられるかを示す研究ではない。学生や消費者の選択と、利用者・予算責任者・調達担当者が分かれた法人の意思決定は同じではない。

満足度調査に高い点が付いていても、予算が増えるとは限らない。担当者は使いやすさを評価していても、調達部門は一定の要件を満たす中で最安値を選ぶかもしれない。どちらかが間違っているのではなく、選択に使う基準が違う。

したがって法人向けの差別化では、「誰が喜んだか」に加えて、「誰の費用や損失が減り、誰がそのために予算を動かせるか」を聞きたい。良い評価を受注可能な条件に変えるには、この間をつなぐ説明が必要になる。

公開研究稿の二つ目の実験は、単なる希望価格の回答ではなく、一定の条件で実際に購入する仕組みを使っている。したがって研究全体を「アンケートだから役に立たない」と退けるのも適切ではない。ただし、学習用製品での選択と、企業が年間契約を更新する判断との違いは残る。

機能の違いを、顧客の仕事の違いへ変換する

例えば、通常翌日に回答するサービスに、二時間以内の優先回答を追加するとする。回答が速いことだけを説明しても、顧客が翌日まで待てる仕事なら追加料金の根拠は弱い。

一方、回答待ちの間に作業員の手が止まり、納品時刻がずれる現場なら、待ち時間を短くする価値があるかもしれない。ここでは機能名よりも、回答を待つ間に何が止まるかを調べる方が重要になる。

ただし、「顧客の損失が大きいから、その分を料金に乗せられる」とは限らない。別の手段で安く回避できる、購入部署がその損失を負担していない、回答を早めても問題が解けない、といった場合がある。顧客側の改善額は、売り手が受け取れる金額と同じではない。

提案を作る際は、少なくとも次を区別するとよい。減らせる作業や損失、それが発生する頻度、競合や内製で代替できる範囲、追加費用を判断する人である。この四つが曖昧なら、機能を足す前に商談で確かめる問いが残っている。

「いくらなら買いますか」の答えだけで作らない

価格を聞く調査には価値があるが、支払いを伴わない回答と実際の選択はずれることがある。Hofstetterらの研究は、支払意思を直接質問する方法に仮想的な回答の偏りがあることを扱い、その補正方法を二つの研究で検討している。A De-biased Direct Question Approach to Measuring Consumers' Willingness to Pay

この研究は、顧客に価格を聞く行為が無意味だと言っているわけではない。回答値をそのまま販売計画へ入れることに注意が必要、という材料である。法人向けなら、回答した担当者に購買権限があるかも別に確かめる。

本稿の実務案は、調査の後に、実際に提供可能な二つの条件を示して選んでもらうことだ。標準の回答時間で現在の料金、対象業務を限定した優先回答で追加料金、といった比較である。条件と費用を明確にし、申込みや予算確保まで進むかを見る。

まだ提供できないサービスを、提供可能だと装って受注する必要はない。試行であることと対象範囲を明示し、見積もりへの合意、契約に進まない理由、継続利用の判断など、段階に応じた行動を観察する。

仮定計算。現在は月400万円。値上げして80社になっても、一社当たり変動費が6万円なら480万円、8万円なら320万円。いずれも固定費等を差し引く前。
本文の仮定計算。月次・変動費控除後、固定費等控除前。実在企業の実績ではありません。

同じ値上げでも、売り手の利益は逆転する

仮に、月10万円のサービスを100社へ提供し、顧客一社当たりの変動費が6万円だとする。固定費を差し引く前の利益は月400万円である。以下は計算のための仮定で、実在企業の実績ではない。

優先対応を含む月12万円の条件へ変え、80社が残ったとする。変動費が6万円のままなら、80社×6万円で月480万円となり、顧客数が減っても、この段階の利益は増える。

しかし優先対応の人員負担で、一社当たりの変動費が8万円になるなら、80社×4万円で月320万円になる。価格を上げても利益は減る。追加の固定費、解約に伴う回収不能費用、獲得費があれば、さらに分けて計算する必要がある。

ここで選択が変わる。対応費を抑えつつ価値を提供できる顧客には有料の優先枠を用意する意味がある。例外対応が多く一社ごとの負担が重いなら、全顧客への値上げより、対象業務や対応回数を限定したプランを検討する方がよい。

また、標準プランで十分な顧客まで高いプランへ移す必要はない。異なる必要を持つ顧客へ同じサービスを売ろうとすることが、過剰な提供費と価格への不満を同時に生んでいる可能性がある。

価格を比べる単位もそろえたい。月額料金だけなら高く見えても、初期費用や追加対応の課金を含む総額では順序が変わることがある。反対に、安く見える標準料金へ頻繁な追加費用を付ければ、更新時に不満が出るかもしれない。売り手の利益だけでなく、顧客が予算を判断する期間の総額を提示する。

差別化を足すより、外す方がよい場合

優先回答を有料で提示しても選ばれず、失注理由が一貫して「通常の対応で十分、予算が合わない」なら、説明を強めるだけでは限界がある。標準プランから不要な支援を外し、価格と提供費用を下げる案を比較したい。

反対に、顧客が継続して優先枠を選び、実際に待ち時間が減り、提供費用を引いても利益が残るなら、その顧客層へ集中する理由になる。顧客の発言、申込み、利用、更新はそれぞれ別の証拠であり、最初の好意的な反応だけで全面展開しない。

顧客の行動と費用 次に選ぶ案
有料でも選ばれ、提供費用を上回る収益が残る 対象顧客を明確にして拡大する
選ばれるが例外対応で採算が崩れる 範囲・回数・提供方法を再設計する
評価は高いが支払いへ進まない 購買条件と予算責任者を確認する
必要性が低く価格だけが障害になる 不要な提供を外した標準案を比較する

この表は普遍的な価格決定モデルではなく、本稿の判断整理である。競合の対応や契約更新の周期によって、短期の結果と長期の収益が異なる可能性もある。

試す際は、値上げした顧客と据え置いた顧客の単純比較にも注意したい。必要性が強い顧客だけが新プランを選べば、その後の継続率の違いを価格の効果だけでは説明できない。顧客の規模、用件、利用頻度とともに結果を記録する。

価格競争から抜けるために必要なのは、競合より多くの機能を並べることとは限らない。誰が何のために追加で払い、その価値をいくらで提供できるかを確かめる。選ばれない付加価値は外し、採算の残る違いへ投資する。 値下げを断る姿勢よりも、この選択が継続的な利益の根拠になる。