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システム投資の優先順位はROIだけでよいか? 案件の依存関係を確認する

計算機の横に並ぶ投資案の書類と、二つの機器をつなぐ共通の土台。

投資会議で、一番収益性の高いシステムから採択した。ところが着手後、そのシステムに必要なデータ整備が予算から落ちていたと分かる。稟議書の数字は間違っていない。それでも、その順番では期待した売上が生まれない。

これは架空の場面だが、投資の比較で起こりうる論理の問題を表している。単独の案件に付いたROIは、その案件を実行できる前提まで保証しない。基盤を無料で使える計算と、基盤を新設する計算を同じ順位表へ載せれば、数字の大小より前に比較の条件が崩れる。

本稿の提案は、必須条件と案件間の依存を先に確認し、実行できる組み合わせ同士で便益・費用・リスクを比べることだ。ROIを捨てるのではない。何の選択に使う数字なのかを限定する。

この記事の目次
  1. 利回りの高い案と、利益の大きい案は同じではない
  2. 共通基盤を「儲からない案件」にしない
  3. 便益が重なると、組合せの利益は単純な足し算にならない
  4. 採算で比べられない条件を、点数で埋めない
  5. 採択後も同じ比較単位を守る

利回りの高い案と、利益の大きい案は同じではない

ここでは説明のため、ROIを「一定期間の便益から費用を引いた額を、費用で割ったもの」と定義する。実務でROIという名前が付いていても、期間、費用の範囲、税の扱いなどが異なれば比較できない。削減した時間をそのまま現金収入として足すことにも注意が要る。

仮に、同じ期間で費用100に対して便益150の案と、費用1,000に対して便益1,300の案がある。前者の比率は50%、後者は30%だが、差額はそれぞれ50と300になる。比率の高さだけでは、予算内で得られる利益の合計は決まらない。この数字は単位を省いた仮定であり、実在案件の収益率ではない。

一方、大きな案を選べばよいとも限らない。予算の上限、実装できる人員、資金が戻る時期が違うからだ。長期案件では将来の金額を同じ時点へ換算する必要もある。まず同じ期間・費用範囲で比べ、そのうえで採れない案を除く。比率はこの整理を代行できない。

英国財務省のGreen Book 2026は、公共事業の評価で貨幣換算できる便益だけでなく、非貨幣的な影響やリスクも扱う。そこでの費用便益比は社会全体を対象にした指標で、企業のROIと同じではない。参考になるのは数値の基準を借りることではなく、数値に入っていない重要な影響を意思決定へ戻す考え方である。

共通基盤を「儲からない案件」にしない

もう一つ、架空の投資案を考えたい。分析機能Aは費用400万円、便益700万円。ただし顧客データ整備Bに300万円が必要で、Bだけでは売上増加を見込まないとする。期間は同じで、いずれも追加の費用・便益という仮定だ。

Aだけなら差額300万円に見えるが、Bが未整備なら実行単位はAとBの700万円になる。この単純計算では便益と費用が等しく、運用費や不確実性を足せば条件はさらに変わる。「BのROIが低いからAだけ採る」という選び方は成立しない。

ではBを先に必ず採るのか。Bが既に別の業務で必要になり、その予算が確保されている場合、今回追加するAの判断は変わる。ただしBの費用を見えなくしてよいわけではない。全体の採算表では一度計上し、Aを追加する判断では何が追加費用になるかを分ける。

さらに、Bを使う別機能Cがあるなら、A+B、B+C、A+B+Cを比較する余地が生まれる。ここでAとCが同じ顧客の解約防止をそれぞれ便益に計上していれば、足し算はできない。「基盤だから将来何にでも使える」という説明より、どの利用が実際に決まっているかが重要になる。

単独のROIを比べる前に、必須条件、依存する案件、便益の重複を確認し、実行できる組み合わせを比較する図
投資案の整理を示す概念図。点数や採択基準を実証したものではありません。

便益が重なると、組合せの利益は単純な足し算にならない

本文のA(費用400万円・便益700万円)、基盤B(費用300万円)へ、同じ期間の機能C(費用200万円・便益400万円)を追加する条件を置く。AとCの便益が重ならなければ、A+B+Cは便益1100万円−費用900万円=差額200万円となる。共通基盤Bは一度だけ計上する。

AとCが同じ顧客の解約防止300万円をそれぞれ含むなら、便益は800万円、差額はマイナス100万円へ変わる。基盤を共有したという理由だけで採算が改善するとは限らない。これは既存の仮定例を拡張した計算であり、便益の予測ではない。実行できる人の順序は案件容量へ分け、本稿では採択する組合せと二重計上に集中する。

採算で比べられない条件を、点数で埋めない

米国会計検査院のIT投資管理の枠組みは、案件単位の管理から、投資全体を選択・統制・評価する管理へ進む考え方を示している。費用や便益だけでなく、リスクや組織の目的との関係を扱う。これは2004年の公的な管理指針であり、その採用によって日本企業の利益が何%増えるかを測った研究ではない。

A+BにCを足すときも、採算の差を「戦略性」の点数で埋めないようにします。守らなければならない条件と、望ましさを比べる条件を分ければ、採点者の期待が一つの数字に隠れるのを防げます。

例えば、期限までに必要な保守対応は、その必要性が確認できているなら、任意の売上拡大案と同じ競争へ入れるより、必要な機能を満たす複数案から費用と影響を比べる。その後、残る実行余力で選択的な投資を考える。ただし「必須」というラベルも、期限、根拠、代替策を説明できなければ優先権にはしない。

貨幣換算しにくい便益も同様だ。利用者への説明可能性を改善するなら、どの説明が可能になり、何が現在できないのかを書く。無理な売上換算をするより、実現する状態と追加費用を示した方が、払う価値があるかを議論できる。

比較を複雑にした結果、都合の悪い採算を隠すことにも注意したい。共通基盤を含めると言いながら、関係の薄い成功案件まで束ねて赤字を埋めるなら、組み合わせを評価する意味が薄れる。追加する案件ごとに、何が使えるようになり、何の費用が増えるかを説明する。依存関係がないものまで、一つの収益率へ押し込まない。

便益が不確かな場合は、平均予測だけで順位を決めず、どの変化で選ぶ案が逆転するかを見る。先ほどのA+Bなら、便益700万円は、利用者が必要な機能を使い、想定した取引が起きることを含む見込みだ。利用が減れば、費用が同じでも便益の見通しは変わる。ただし利用者数と便益が比例するとは限らないため、一律の倍率を掛けるのでなく、便益を生む取引の内訳に戻る。

追加調査に費用を掛けるなら、この逆転点に関わる前提を優先する。選ぶ案が変わらない細部を精密化するより、採用するかを左右するデータ利用の可否や運用負担を確かめる。これは投資判断の補助としての提案であり、不確実性を消せるという主張ではない。

また、必要な機能を満たす最小案と、大きく作る案を分けたい。基盤Bが必要でも、将来の全事業に対応する規模まで今すぐ作る必要があるとは限らない。最小案でAが動き、後の拡張が可能なら段階的な支出を比較できる。最小案では移行を二重に行うなら、その再作業も入れる。単に初期費用が安い案へ流れないための比較になる。

逆に、条件がそろった独立案件まで毎回この議論をやり直す必要はない。比較に十分な費用と便益が見えているなら、その差を判断に使う。多面的な評価は、採算の悪い案を言葉で救うためではなく、採算を比較できる状態を作るために行う。

採択後も同じ比較単位を守る

予算承認時にはAとBを一体で説明したのに、進捗報告ではAだけを成功扱いにすれば、最初の判断を検証できない。必要なデータが使える日、運用を引き受ける人、便益が発生し始める条件まで、投資案に対応付けて残したい。

OECDの2025年のデジタル政府投資の政策枠組みも、デジタル投資を予算獲得だけで完結させず、投資の管理や結果の把握につなげている。対象は各国の公共部門であり、企業の案件順位を直接決める資料ではない。本稿では、採択時の期待と実行後の結果をつなぐ必要性の参考として用いる。

実行中にBが遅れたら、Aの便益発生も遅れるのか、それとも別のデータで限定運用できるのかを更新する。限定運用できるなら、費用を抑えて先行する案を比べ直す。できなければ、Aだけ進めることで増える保管・再作業の負担も含め、着手の延期を考える。

今回の投資会議へ持ち込むべきものは、順位表だけではない。単独で成立する案、組み合わせで初めて成立する案、同じ便益を取り合う案を区別した比較表である。独立して実行でき、同じ条件で比べられる案には採算指標を使う。前提が他案件にあるなら、その組み合わせの採算へ戻る。これが、数字のよい稟議書を、実際に動く投資計画へ変える最初の修正になる。

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