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新製品の技術を、特許にする部分と秘密に残す部分へ分ける

形状を調べる虫眼鏡と部品、その奥にある工程設備と施錠された保管箱

新しい部品を顧客へ提案する前に、技術をどう守るかを考えます。仮に、部品の形状に工夫があり、成形時の温度調整にも独自のノウハウがあるとします。製品を分解すれば形状は分かっても、工場内の調整手順まで同じように分かるとは限りません。

この製品を全部特許にするか、全部秘密にするか。その二択の前に、外へ出す情報と工程内に残る情報を分けると、守り方を考える単位が変わります。大切なのは、開発成果へ一つのラベルを付けることより、顧客へ渡した後にも何が守れるかです。

この記事の目次
  1. 社内で秘密にしていても、製品から分かる情報がある
  2. 他社の利用を確かめ、取得した権利を使えるか
  3. 出願の中身を隠しすぎると、求める権利と両立しない
  4. 試作品を渡す前に、外へ出す情報を決める

社内で秘密にしていても、製品から分かる情報がある

図面を限られた担当者だけに見せ、ファイルへ秘密と表示する。こうした管理は必要ですが、市販した部品を調べれば得られる情報まで、それだけで独占できるわけではありません。誰かが図面を持ち出す経路と、製品そのものを調べる経路は違うからです。

WIPOの営業秘密ガイドは、秘密としての保護が、第三者による独立した発見・開発を一般に排除しないことを説明しています。市場に出た製品を分解・分析するリバースエンジニアリングも、一般に営業秘密の保護が及ばない情報取得の経路として挙げています。ただし、国による違いがあり、契約で解析を制限できる場合もあります。WIPOガイド・第III部2.2、2.3

つまり、秘密を盗まれないための対策と、競合が自力で同じ技術へ到達することへの備えは、同じではありません。秘密保持契約を結んだ取引先への提供と、契約関係のない第三者が市場の製品を調べる場合も分けて考える必要があります。

冒頭の部品で形状を隠したいなら、図面の閲覧権限だけを絞っても、販売後の解析という経路は残ります。反対に、完成品を見ても再現に必要な工程条件が分からないなら、その条件を外へ渡さず管理する意味があります。同じ製品の中でも、秘密を保てる見込みは一様ではないのです。

日本のINPITの相談FAQも、外から見たり分解したりすれば分かる機能・部品形状などを権利化の例に、製造方法や侵害の発見が容易でないものを秘匿化の例に挙げています。これは一律の規則ではなく、技術の内容や競合との関係によって変わる例示です。INPIT・権利化と秘匿化の使い分け

他社の利用を確かめ、取得した権利を使えるか

製品から分かる技術なら、特許を検討する理由があります。秘密が漏れたかどうかだけでなく、取得した権利の範囲に他社の実施が含まれるかを問題にできるためです。ただし、外から分かる形状なら必ず特許になる、という意味ではありません。特許の対象となる発明か、どこまで権利を求めるかの検討は別に残ります。

ここでもう一つ考えたいのが、他社による利用を発見できるかです。経済産業省の2026年公表「技術流出対策ガイダンス第2版」は、組成や形状など侵害を発見しやすいものと、製法のノウハウなど発見しにくいものを分けています。競合が短期間で追い付く見込みか、追随に時間がかかるかも、権利化・秘匿化を選ぶ際の材料にしています。ガイダンス・第1章、21頁

部品の構造が製品に表れるなら、他社製品の解析が侵害の有無を確かめる手掛かりになり得ます。ところが、工場内の工程条件は、特許で公開しても、他社の製造現場で使われているかを外から確かめにくいかもしれません。公開によって情報が伝わることと、侵害を発見して権利を使えることは別の問題です。

これは、工程の技術は特許にしてはいけないという結論ではありません。工程でも利用の手掛かりを得られる場合や、競合の独立開発に備えて権利を求める意味がある場合は、判断が変わります。一方で、自社しか知らず、完成品からも容易に分からない条件を長く管理できるなら、公開しない選択の重みが増します。

このガイダンスが示すのは、企業が選べる対策です。特許を取得する費用に加え、どの市場で何を発見し、どんな権利を使いたいのかまで、事業の見込みと合わせて考える材料です。

出願の中身を隠しすぎると、求める権利と両立しない

では、特許には形状だけを書き、工程条件は全部秘密に残せばよいのでしょうか。ここには限界があります。どこまで説明が必要かは、特許で何を保護しようとするかと切り離せません。

日本の特許法第36条は、発明の詳細な説明を、その分野の通常の知識を持つ人が実施できる程度に、明確かつ十分に記載することを求めています。また、特許を受けようとする発明は、詳細な説明に記載したものである必要があります。特許法・第36条4項1号、6項1号

仮の部品で、権利を求める発明を実施するために特定の工程条件が欠かせないのに、その条件を隠せばよいとは言えません。反対に、出願する発明の実施に必要な説明と、権利範囲に関係しない周辺のノウハウは、同じものではありません。出願書類へ社内の技術情報を全て盛り込む必要がある、という話でもありません。

ここで行うのは、文章を曖昧にして公開を免れる工夫ではなく、どの発明の保護を求め、何を説明し、何を別の情報として管理するかをそろえる作業です。実際の記載が要件を満たすかは、具体的な発明と請求する範囲を示して検討する必要があります。形状と工程という呼び分けだけで、特許を取得できるかは判断できません。

WIPOも、製品の技術的な特徴は特許で、その性能を高める特定の設定は営業秘密で守るという組合せを例示しています。組み合わせる対象は、同じ情報の公開と秘密の両立ではなく、異なる部分です。WIPO・営業秘密を他の知財保護と組み合わせる

新製品の部品を境に、販売先が観察できる形状と、工場内で管理する工程条件を分けた概念図。形状は権利化を検討し、工程条件は秘匿を検討する例だが、出願の記載に必要な情報まで隠せるという意味ではない。
図:同じ製品を、情報が伝わる経路で分けた編集上の概念図です。法的保護の成立や、解析・侵害発見の成功を示す図ではありません。

試作品を渡す前に、外へ出す情報を決める

秘匿を選んだ工程条件にも、管理する仕事が残ります。日本の不正競争防止法では、営業秘密は、秘密として管理され、事業活動に有用で、公然と知られていない情報として定義されています。「出願しなかった情報」というだけで保護が決まるわけではありません。不正競争防止法・第2条6項

部品の試作を外へ委託すれば、それまで工場内にあった条件を他社へ渡す必要が生じるかもしれません。秘匿すると決めたのに、作業に必要な人と、顧客へ提示する資料の範囲を決めていなければ、方針と実際の流れが合いません。秘密を扱う相手・利用目的・再提供の扱いを、開示前に具体化することが重要になります。

以下は資料を踏まえた編集上の提案です。顧客へ性能を示す際、まず結果だけで評価できるのか、部品の引渡しが必要なのか、工程条件まで説明しなければ評価できないのかを分けます。渡す対象が変われば、相手から見える情報も変わります。開示が必要な場合は、情報の範囲と利用目的を定めた契約と管理を検討し、契約を交わせば漏えいがなくなるとは扱いません。

出願件数や引用数を使って提携先を探す話は、特許指標の記事で扱っています。ここで決めるのは件数を増やすことではなく、自社の部品のどの情報を、どの経路から守るかです。

顧客への提案へ戻ると、部品の形状は権利化を検討し、工程内の調整手順は秘密管理を検討するという組合せが候補になります。ただし、その工程条件が出願する発明の説明に欠かせないなら、切り分け直さなければなりません。試作品、説明資料、工場で使う条件を並べ、外へ渡した後にも守れる範囲と、公開して権利を求める範囲を決めてから、提案の中身を整えます。

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