特許件数で技術力を判断できるか? 提携先選びの確認点
提携候補の比較表で特許の多い会社が目立つ。けれど、その発明は今回の課題に関係し、必要な納期に使えるのだろうか。件数は探索の入口になりますが、採用の理由は公報と実行能力まで確かめたいところです。同じ発明の重複や引用の期間をそろえ、数字から読む対象を選ぶ順を見ていきます。
特許データは、技術の動向を探す有用な入口になる。一方、総件数や被引用数をそのまま会社の能力順位にするには無理がある。比較可能な単位へ揃えた指標で「詳しく読む対象」を選び、採用する相手は今回必要な技術と実行能力で決める。 数字を捨てるのではなく、数字に任せる判断の範囲を限ることが本稿の提案だ。
この記事の目次
今回の技術課題に関係する、公報を探す
以下は編集上の提案である。最初に、調べたい技術課題を定める。「AIに強い会社」より、「既存設備で検知できない欠陥を捉えられる会社」の方が、読む特許の範囲を絞りやすい。広い分類の総数だけでなく、目的に関係する内容を確認する。
次に、同じ発明に由来する出願群をどう扱うか、出願と登録のどちらを数えるか、期間や国をどう揃えるかを決める。海外へ展開した件数を見たいなら国別の出願は意味があるが、発明の種類を知りたいなら同じ発明の重複に注意する。どちらか一方の数え方だけが常に正しいわけではない。
そのうえで、候補の特許を読んで、必要な機能に関係するかを確かめる。ただし、文章上の関連があることと、事業で利用可能であることは別である。具体的な利用可否や権利関係は専門的な確認が必要で、件数ランキングからは判断しない。
件数と引用のランキングが食い違ったときも、平均点にまとめて違いを消さない方がよい。広く出願しているが今回の課題との接点は少ないのか、件数は少なくても関係する一群へ引用が集まっているのかを、公報の内容へ戻って確かめる。これはどちらの指標が正解かを決める作業ではなく、違う数字が示す候補の特徴を読む作業である。
その確認で関係の深い技術が見つかれば、次の面談では件数の説明を求めるより、使いたい条件で実証できるかを尋ねる。集計表が担う探索の役割を終えたら、判断材料も切り替える。
五か国の文書と、一つの発明を区別する
同じ発明を五か国へ出願した場合、文書は一か国の五倍でも発明が五倍あるとは言えない。特許族でまとめ、分野・出願年・法的状態・権利の対象をそろえて比較する。引用の観測期間も確認し、探索候補を見つける指標と、現在の課題を解く能力や利用可能な権利の確認を分ける。
新しい発明が、引用数だけで不利になる
被引用数には時間の問題がある。最近の特許は、他の特許から引用される機会がまだ少ない。OECDのマニュアルも、年代や技術分野、審査慣行などの違いを考慮する必要を示している。古い技術と新しい技術を累積の引用数だけで比べると、観測期間の違いが混ざる。
ここで、発明の古さを一律に補正すれば真の価値が分かる、とは考えない方がよい。補正の方法にも仮定があり、新しい発明の将来の引用がまだ見えていないことは変わらない。新規性の高い候補を探す場面で、引用の少なさだけを足切りに使うのは、目的と指標が合っていない。
似た問題は会社名にもある。企業の買収や名称変更、子会社の扱いによって集計対象が変わる。どのグループを一つの企業として数えたかが違えば、順位の変化を研究開発の急成長と誤解しかねない。ランキングを読む前に、集計の定義を読む必要がある。
件数と引用は、今回の性能をどこまで説明するか
OECDの2009年の特許統計マニュアルは、全ての発明が特許になるわけではなく、特許の取得行動が産業、国、時期で異なることを説明している。特許の価値も均等ではなく、一部に大きな価値が集中する。そのため、単純な件数を技術活動の尺度として読む際には注意が必要になる。OECD特許統計マニュアル
これは、特許を多く持つ会社を疑うべきだという話ではない。同じ件数に、異なる出願方針や事業構成が混ざるという問題である。公開するより秘密として管理する知識もあり、特許の少なさだけでは、その会社が何も工夫していないとは言えない。
また、大企業の全事業の件数と、特定分野に絞った企業の件数を比べれば、企業規模や事業の広さの影響を受ける。今回必要な分野で使える知識を探しているのに、無関係な事業の蓄積まで加点していないかを確認したい。
引用されている特許なら、価値を測れるのか
Hall、Jaffe、Trajtenbergは、米国企業の特許、被引用、研究開発と市場価値の関係を分析している。著者が公開する2003年の改稿版では、特許当たりの被引用数が企業の市場評価に追加の情報を持つことを報告した。単純な件数だけより、特許の違いを捉える材料になり得る。著者公開稿
ただし、これは過去の米国データによる統計的な関連であり、「引用を一つ増やすと企業価値が一定額上がる」という介入効果ではない。測っているのも市場の評価であり、個別技術の性能や、提携後に納品できる能力ではない。企業全体の関係を、そのまま特許一本の値札へ変換することはできない。
欧州企業を扱ったHallらの2007年の研究では、1991~2004年のデータを用い、被引用や複合的な質の指標が価値について持つ情報は限定的だと報告している。出願先によっても関連が異なっていた。研究の原要旨
米国の研究を否定した結果というより、対象、期間、出願先、指標が変われば説明力も変わるという材料として読みたい。引用数は無意味でも万能でもない。数字を増やしてランキングを精密に見せる前に、どの価値の代理として使っているかを明確にする必要がある。
探索から採用へ進んだら、試作品と供給体制を見る
架空の製造会社が、ある検査分野の技術動向を初めて調べるとする。膨大な公報を最初から全て読むのは難しい。同じ分野・年代・発明単位へ揃えた件数や引用情報で、活発に活動する出願人を見つける使い方には意味がある。この段階で選ぶのは、契約する会社ではなく、詳しく読む対象である。
条件を変え、既に候補企業が数社あり、来年度の量産に使える技術を選ぶ場合を考える。ここでは総件数をさらに比較するより、対象製品での性能、試作の再現性、供給体制、支援範囲を確かめる方が選定に近づく。技術の蓄積と、今回の納期に実装できることは別だからだ。
さらに、候補が設立直後で、公開データがまだ十分に現れていないとする。この場合、特許の少なさで除外すると、新しい選択肢を取り逃がす可能性がある。一方、若い企業という理由だけで能力を信じるのでもない。試作品や説明の検証など、別の証拠へ確認を移す。
選び方が逆転するのは、数字が大きいかではなく、探索段階なのか採用段階なのか、データが比較可能で十分に蓄積されているかという違いである。
件数が担う判断の範囲を限る
同じ注意は、研究部門の成果を件数で評価する場合にも要る。知識の蓄積、競争上の位置、具体的な事業への貢献では、増やしたいものが違う。長期研究も直近の売上だけで否定せず、可能になったことと残る不確実性を説明する。これは提携先の選定とは別の用途であり、同じランキングを両方の結論に使わない。
数字を使わない評価にも、担当者の印象に偏る弱点がある。だからこそ、集計の再現性と個別の技術判断を組み合わせる。対象データと除外条件を残し、技術を読む人が何を根拠に選んだかを記録する。指標を使うか人が判断するかではなく、どの仕事をどちらへ任せるかの問題である。
特許ランキングは、技術の地図を読む入口にはなる。しかし、地図で目立つ場所が、今回の目的地とは限らない。比較条件を揃えた数字で探索を絞り、最後は必要な技術の中身と実行能力を確認する。件数を増やすほど技術力が上がるという説明より、その二段階を分ける方が、提携先選びの理由を具体的に示せる。