需要予測は100個、発注は80個か120個か――欠品と売れ残りの損失から数量を決める
「予測は100個です」。仕入れ会議でそう聞けば、発注も100個にしたくなる。80個なら売り逃しそうだし、120個なら余りそうだ。予測から離れる決定には、説明が必要になる。
ところが、同じ需要予測でも、利益を考えた発注量は変わる。よく売れるかどうかだけでなく、売れた1個がいくらを残し、売れなかった1個でいくらを失うかが違うからだ。
この記事では、販売期間の前に一度だけ仕入れ、期間中の追加発注ができない商品を考える。売価は固定し、返品も代替商品の購入もない。判断の中心は、平均を当てることから、もう1個仕入れる価値を確かめることへ移る。
この記事の目次
同じ需要なのに、発注量が逆になる
まず、計算のための仮想例を置く。需要は80個、100個、120個のいずれかで、確率は順に25%、50%、25%。平均は100個である。これは店舗の実績でも研究の観測値でもない。
売価は1個1,000円、売れ残りから回収できる金額は0円とする。比較するのは、仕入れ単価が200円の場合と800円の場合だ。送料・税・固定費はこの例に入れない。
| 発注量 | 平均販売数 | 仕入れ200円の期待利益 | 仕入れ800円の期待利益 |
|---|---|---|---|
| 80個 | 80個 | 64,000円 | 16,000円 |
| 100個 | 95個 | 75,000円 | 15,000円 |
| 120個 | 100個 | 76,000円 | 4,000円 |
ここでの利益は「販売収入-発注した全商品の仕入れ額」で、固定費などの控除前。期待利益は、各需要が起きたときの利益を、その確率で重み付けした値である。毎回この額を得られるという意味ではない。
100個仕入れても平均販売数は95個になる。需要が80個の日には20個余り、需要が120個の日には100個までしか売れない。多く売れる日の需要が、少なく売れる日の余剰を帳消しにするわけではない。
この条件では、仕入れ200円なら120個、800円なら80個が期待利益を最大にする。需要予測は全く変えていない。変わったのは、余る損失と足りない損失の釣り合いだ。
101個目を仕入れるか、そこで止めるか
100個を既に発注すると決めたとしよう。101個目が売れるのは、需要が120個だった場合だけ。売れる確率は25%、売れ残る確率は75%になる。
仕入れ200円なら、売れた場合は800円を残し、余れば200円を失う。追加1個の期待利益は、25%×800円-75%×200円=プラス50円。800円仕入れなら、25%×200円-75%×800円=マイナス550円だ。
200円の場合は、101個目から120個目まで売れる確率が同じなので、追加するたびに期待利益が50円増える。121個目は必ず余るため、120個で止める。800円の場合は、81個目から既に期待利益がマイナス50円になるため、80個で止める。
これは「高利益の商品は多めに、低利益の商品は少なめに」という掛け声よりも狭く、確かめやすい判断だ。追加する1個の利益が、その1個の余る損失を上回るかを数量ごとに比較している。
欠品率の目標を先に置くと、何を取り落とすか
この考え方は、在庫理論のニュースベンダー問題に対応する。MITの講義資料では、一度だけ注文する状況で、足りない1個の損失を「売価-仕入れ額」、余る1個の損失を「仕入れ額-回収額」と置く。
二つの損失から求める比率は、「足りない損失÷(足りない損失+余る損失)」。累積需要確率がこの比率以上になる、最小の発注量を選ぶ。連続分布なら、その比率に対応する需要の分位点になる。
仮想例では、仕入れ200円の比率は80%、800円は20%。需要が80個以下の確率は25%、100個以下は75%、120個以下は100%だから、前者は120個、後者は80個になる。どちらも「平均100個」という一点だけでは決まらない。
この80%や20%は、顧客満足度や予測の正解率ではない。このモデルで費用から計算した、需要の累積確率に関する境界である。先に「欠品を何%まで許す」と置けば、利益とは別の目標を選んだことになる。必要なサービス水準を約束する事業なら、それ自体には理由があるが、その制約を加えた数量と費用を改めて考える必要がある。
また、平均発注が常に誤りという話でもない。同じ例で仕入れ額が300円なら、101個目はマイナス50円、81個目はプラス450円となり、100個で止める。平均と発注が一致する条件もある。平均に合わせることを出発点にせず、損失から照合する意味はここにある。
さらに「欠品しない確率を75%以上にする」という制約を、説明のために仮定してみる。これは研究が推奨する基準ではない。800円仕入れでは、80個の達成確率は25%で制約を満たさず、100個は75%で満たす。制約を満たす数量の中では100個が期待利益15,000円で最も高く、120個の4,000円を上回る。損失から得た80個を、約束に反してそのまま採用するわけではない。
データを渡すだけで、判断は変わるのか
数式を用意すれば、誰でもその通りに注文するとは限らない。SchweitzerとCachonの実験研究は、米国のMBA受講者に既知の需要分布を示し、高利益と低利益の条件で注文を繰り返してもらった。第1実験は34人が完了し、コンピューター不具合の1人を除いた33人を分析している。
注文数と計算上の利益を記録した結果、高利益条件では期待利益を最大にする量より少なく、低利益条件では多く注文する傾向があった。最適量より平均需要側に寄っていたということだ。これは自己評価のアンケートではないが、日本の実店舗で同じ偏りや損失額が出ると立証した研究でもない。
この実験で結果のフィードバックが偏りを十分に解消しなかったことを、教育は無意味という結論には広げられない。BoltonとKatokの後続研究の公式抄録は、経験やフィードバックの組み立て方が判断に影響することを示唆している。ここでは抄録までの確認であり、個々の介入効果の大きさは評価しない。
編集上の提案は、担当者へ平均予測だけを渡すのではなく、追加する数量について売れる確率、売れた利益、余った損失を並べることだ。判断を改善する研修の効果を保証するものではない。少なくとも、100個を選んだ理由が予測への追随なのか、採算の比較なのかを説明できる形になる。
「80個売れた」を「需要80個」にしてはいけない
ここまでの計算では、需要の分布が分かっていると仮定した。実務でその前提が崩れやすいのは、売上記録が在庫量で頭打ちになるときだ。
80個を置いて完売した日には、需要が80個だったのか120個だったのかを、販売数だけでは区別できない。完売記録を需要80個として扱うと、その日には観測できなかった需要まで存在しなかったことになる。
HuhとRusmevichientongの理論研究の著者公開稿は、販売数が在庫に制限され、失われた売上が見えない状況で複数期間の在庫計画を考える。研究の学習手法は、独立で同じ分布に従う需要などの前提を置く。季節変動や販促で需要が変わる事業に、その成果をそのまま移すことはできない。
したがって、完売日は「需要が少なくともこの数量あった」と区別する。売り切れ時刻や未充足の注文を記録できれば補助情報になるが、去った顧客の全需要が分かるわけではない。不明な売り逃しを都合のよい数字で埋め、80%の境界だけ精密に計算しても、入力の不確かさは残る。
購入意向から販売予測を作る場合は、別の問題として意向と実際の購買の差を扱う。ここで決めたいのは、予測を作った後、その分布と損失を使って何個仕入れるかである。
発注会議で決めるのは、平均ではなく追加の境界
同じ需要分布でも、安く仕入れられる商品と、売れても利益が薄い商品では発注の方向が逆になる。売れ残りを値引きで回収できれば余る損失が減り、欠品に契約上の損失があれば足りない損失が増える。数量を変える理由は、需要だけにあるわけではない。
一方、期中の補充が可能なら、初回発注と追加発注を分けて考える。資金制約や最低ロットも、この単一期間の計算の外にある。800円仕入れで120個を注文し、需要が80個だった場合は16,000円の赤字になる。期待利益の比較と、悪い日の損失に耐えられるかは別の問いだ。
一度だけ仕入れる商品の、制約がない場合の期待利益を基準にするなら、追加1個の期待利益がプラスの範囲まで発注し、マイナスに変わるところで止める。 資金・ロット・供給義務があるなら、それを満たす数量の中で比較し直す。需要平均100個という予測を、100個注文する理由へ自動で変換しない。この例で120個と80個を選び分けられることが、その判断の具体的な答えになる。