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課長をなくせば決裁は速くなるか――フラット化で消える肩書、残る判断と育成の仕事

管理職の階層を減らす。決裁を短くする。調整役を残す

課長の承認をなくし、担当者が部長へ直接相談する。例えば、この変更で組織図は一段低くなる。しかし部長の受信箱に相談が集中し、新人は誰に聞けばよいか分からなくなったとしたら、減ったのは階層であって、判断待ちではない。

組織のフラット化には、情報の伝達や意思決定の経路を短くする期待がある。その期待を実現するには、役職を減らす前に、そこで行われていた仕事をどこへ移すかを決める必要がある。

本稿が提案するのは、決定権を現場へ移せる領域から階層を見直し、調整・育成・例外判断の受け皿がない領域は先に役割を設計することだ。管理職を守るためでも、一律に減らすためでもない。判断がどこで終わるかを変える改革として考える。

この記事の目次
  1. 階層が減ることと、権限が下りることは別である
  2. 管理職の仕事を、承認だけで数えない
  3. 任せるために、情報をそろえる
  4. 同じ階層削減でも、実行すべきかが変わる
  5. 非公式な管理職を作っていないか
  6. 部下の人数に、万能な正解を置かない

階層が減ることと、権限が下りることは別である

Julie Wulfの2012年の研究稿は、米国の大企業における階層削減を、単純な分権化として理解することに疑問を呈している。CEOと事業責任者の距離が縮まる一方、本社の専門機能がCEOへ直接報告する構成も強まり、集中と分散の両面があると論じる。The Flattened Firm — Not as Advertised

主な基礎データは、1980年代以降の米国大企業の職務・報告関係・報酬などである。日本企業の課長を減らした際の因果効果を測った実験ではない。それでも、階層の数を権限委譲の指標として扱わないための材料になる。

部長へ直接報告する人が増えたとき、部長が細部へ介入しなくなる可能性も、より多くの案件を直接見る可能性もある。組織図だけから、どちらが起こるかは決められない。

改革案には、「課長職を廃止する」の横に、価格の例外を誰が決めるか、人員を誰が調整するか、新人の判断を誰が支えるかを書く。以前と同じ案件がすべて部長へ上がるなら、権限委譲ではなく、相談先の集中になっている。

管理職の仕事を、承認だけで数えない

日常業務の中で、管理職が担っている役割は目に見える決裁だけとは限らない。優先順位が衝突した案件の調整、他部門との交渉、担当者の判断の確認、顧客への説明などがあり得る。役職をなくしても、それらが不要になるとは限らない。

そこで階層の見直し前に、直近の具体的な案件を使って役割を整理したい。何時間働いたかだけでなく、その人が介入したことで何が決まり、誰の仕事が動いたかを確認する。存在を正当化するための業務一覧ではなく、移すべき判断を特定するための整理である。

現在の役割 階層を減らす際に決めること
定型案件の承認 条件を定めて担当者へ任せられるか
部門内の優先順位調整 誰が資源配分を決め、衝突を解消するか
他部門との交渉 相手側にも通じる決定権を誰に渡すか
新人への助言と確認 相談時間を確保した支援者を置けるか
重大な例外の判断 上位者へ上げる条件と応答の責任をどう定めるか

この表は本稿の実務案である。役割をすべて一人へ集める必要はない。技術上の助言者と評価する上司を分けるなど、目的に応じた配置も考えられる。ただし「チームで対応」とだけ決めて担当を曖昧にすると、結局いつも同じ人が引き受けることになり得る。

任せるために、情報をそろえる

権限を渡すときに必要なのは、信頼を宣言することだけではない。判断に使う情報と、結果を確かめる仕組みも必要になる。

Bloomらはインドの繊維企業で、無作為に選ばれた工場へ経営管理の助言を提供する実験を行った。公開研究稿では、情報の流れが改善し、経営者が中間管理職へより多くの判断を委ねる変化を報告している。Does management matter? Evidence from India・公開研究稿

ここで参照するのは2010年12月の公開研究稿である。対象企業数が限られることも研究の制約として挙げられている。この介入は、情報収集、品質、在庫などを含む管理改善の組み合わせだ。管理職を減らす実験ではなく、情報システムだけの効果を切り出したものでもない。日本の職場へ同じ改善率を当てはめることはできない。

それでも、判断を委ねるには、任せる側が状況を把握でき、任される側が必要な情報を使えることが重要だという示唆はある。例えば値引きを任せるなら、原価、契約条件、他案件への影響が見える必要がある。情報が上司にしかなければ、権限表を書き換えても相談は減りにくい。

判断結果の点検は、すべてを事前に承認する方法だけではない。低影響で修正可能な案件なら、条件内は担当者が決め、例外や偏りを後から確認する構成も検討できる。重大な損失が回復できない判断まで同じ扱いにする必要はない。

役職を減らす前に、仕事を移す。経験者が担う定型の判断の場合は、権限と情報を現場へ渡す。部門をまたぐ調整が多い場合は、調整の責任者を先に決める。新人への支援が欠かせない場合は、育成の受け皿を先に整える。
本文の部署別の仮想例。階層削減の効果や、一人が管理できる人数を実証した図ではありません。

同じ階層削減でも、実行すべきかが変わる

仮に、経験を積んだ担当者が定型案件を処理し、課長は決まった条件を満たしているかだけを再確認している部署を考える。条件が共有され、例外を見つけて上位者へ渡せるなら、担当者へ決定権を移し、この承認段階をなくす試行には意味がある。

一方、新しい顧客向けの個別案件が多く、課長が営業・開発・運用の衝突を日々調整している部署ではどうか。その役割を設計せず廃止すると、複数の担当者がそれぞれ上位者へ相談し、同じ問題を別々に説明する可能性がある。この場合は、先に横断調整の責任者と判断範囲を定める。

さらに新人が増えた場合は、定型業務でも判断の支援が必要になる。承認そのものは減らせても、育成や相談の時間まで削れるとは限らない。支援者に余力がないなら、まず育成の体制を確保する方が先だ。

ここで判断を分けるのは、上司が有能か無能かという人物評価だけではない。業務の定型性、部門をまたぐ依存、担当者の経験、判断に必要な情報、支援の余力である。同じ会社でも部門ごとに異なる変更が合理的になり得る。

非公式な管理職を作っていないか

肩書をなくした後も、経験者が相談、他部署との交渉、新人の確認を担っているなら、その時間を正式な仕事として扱いたい。全員を個人の成果だけで評価しながら、特定の人に支援を期待すると、その人だけが自分の仕事を進めにくくなる。

役割を持ち回りにする方法もあるが、引継ぎと判断の一貫性を保つ費用がかかる。専門性が必要な相談まで機械的に交代する必要はない。誰が担うにしても、権限、使える時間、評価上の扱いを明示し、役職を減らした分の仕事が見えなくなることを防ぐ。

部下の人数に、万能な正解を置かない

一人の管理職が何人を見るべきかという問いも、人数だけでは答えにくい。独立した定型業務を担う人と、毎日複雑な判断を必要とする人では、支援に必要な時間が異なる。

組織を変える前に、上位者へ移る相談と調整を見積もりたい。既存の会議時間に、廃止する階層が担っていた相談を足すだけでは、上位者の予定を超えるかもしれない。その場合、役職だけ減らしても、非公式な代理者や会議が増える可能性がある。

小さく試すなら、部門を丸ごと変える前に、一種類の判断の委譲から始める。判断までの時間、上位者へ戻された割合、手戻り、相談できずに止まった案件を追う。上位者の負担だけでなく、担当者が他部署を追いかける時間も確認する。

比較では、簡単な案件が多かった月と難しい案件が多かった月をそのまま比べない。変更前後の業務の種類や人数を記録し、改善が見えた範囲から広げる。短くなった決裁時間が、後工程の修正増加で相殺されていないかも見る。

定型の判断を現場で完結できるなら、権限と情報を渡して階層を減らす。調整や育成が不可欠なのに受け皿がないなら、その役割を先に作る。 フラット化の成否は、組織図の段数より、重要な判断と支援が誰の手で終わるようになったかに現れる。