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業務改革で他部署の負担が増える:削減効果を全体で確かめる方法

書類が少ない机と書類が積み上がった隣の机で働く担当者。

申請の受付をセルフサービスにしたら、管理部門の処理時間が減った。改革報告は成功になった。ところが申請する社員は、入力方法を調べ、添付書類を整え、差し戻しを直すために、以前より時間を使っている。改革で仕事が消えたのか、別の人へ渡ったのか。ここを区別しないと、成功の意味が変わってしまう。

業務改革では、目に見える工程を減らしやすい。だが、その工程が担っていた判断、調整、例外処理は、工程図から箱を消しただけではなくならない。処理の担当を減らしても、残った人の確認や待機が増えることがある。

本稿の提案は、改革後に移った作業と例外の引受先を追い、負担を処理できる能力と裁量がそろってから広げることだ。新しい流れが仕事を減らすなら展開する。現場の残業や無記録の手直しで成立しているなら、展開より工程の再設計を優先する。

この記事の目次
  1. 工程が短いことと、働きやすいことは同じではない
  2. 悪化の研究があるから、標準化が悪いとは言えない
  3. 時間削減を、別部署への請求書にしない
  4. 残す余裕には、仕事がある
  5. 広げる前に、負担の行き先を三つに分ける
  6. 習熟待ちか、設計の欠陥かを分ける

工程が短いことと、働きやすいことは同じではない

Parkerの2003年の論文は、英国の大型車両製造・組立企業を対象とした、3年間の準実験的な現場研究である。両時点の回答を対応させられた368人の分析で、リーンの施策導入後に仕事上の自律性などの認知が低下し、従業員の心理的な指標にも悪化が見られた。無作為割付ではなく、全ての業務改革が同じ結果になる証拠ではない。Longitudinal Effects of Lean Production on Employee Outcomes・原論文

この研究を、改革しない理由として使うのは早い。本稿が読み取るのは、工程や組織の名称だけでなく、実際の仕事の変わり方を調べる必要性である。作業の順番を調整できなくなったのか、自分で異常を直せなくなったのか、相談に使える時間がなくなったのか。改善と呼んだ変更の中身を見る。

また、ここで扱う心理的な測定値は、企業の利益や生産量そのものではない。生産が増えていても、働く側の負担が増える可能性はある。逆に、導入直後に慣れないと感じたことだけで、長期の失敗を決められるわけでもない。

悪化の研究があるから、標準化が悪いとは言えない

Hasleらの2012年の文献レビューは、リーンと労働環境の関係を調べ、特に複雑さの低い手作業で悪化の証拠が目立つ一方、改善や混合した結果も報告している。仕事の複雑さ、導入方法、職場の状況が異なり、単一の因果関係では整理できないという結論である。製造現場の研究を、日本の事務業務へ直接当てはめることはできない。Lean and the working environment: a review of the literature・原論文

同じ手順の標準化でも、毎回迷っていた確認を減らす場合と、例外へ対応する裁量まで取り上げる場合では、働く人にとっての意味が違う。研究結果の違いを「どちらもある」で終えず、自分たちが変える条件へ戻したい。

例えば定型申請の必要書類が明確になれば、問い合わせが減る可能性がある。一方、事情の異なる申請まで同じ入力を強制し、例外を相談する窓口をなくせば、画面の外で相談や修正が増えるかもしれない。標準手順の完成度と、標準に収まらない仕事の扱いを一緒に設計する。

時間削減を、別部署への請求書にしない

旧方式:合計12分:管理部門10分 + 申請者2分:一件当たりの仮定。新方式:合計11分:管理部門3分 + 申請者8分:全体で減るのは1分。追加の修正が平均2分なら:新方式の合計は13分:旧方式より1分増える
図:説明用の仮想計算。実測値や一般的な効果量ではない。

説明のため、旧方式では管理部門が一件10分、申請者が2分使うと仮定する。新方式では管理部門が3分、申請者が8分なら、合計は12分から11分へ減る。管理部門だけでは7分の削減だが、全体の削減は1分である。

ここへ新方式で発生する追加の相談や修正が一件平均2分加われば、合計は13分になる。これは架空の計算で、セルフサービス化の一般的な効果量ではない。どこまでを数えるかによって、判断が逆転することを示している。

さらに、同じ1分でも使う人の条件が違う。毎日処理する担当者の1分と、年に一度しか申請せず毎回説明を読む社員の1分では、まとめて処理できるかが異なる。時間単価だけでなく、仕事の中断と習熟の頻度も確認したい。

反対に、入力者が情報を最もよく知っていて、その場で確認できるようになれば、担当者への聞き返しが減る場合もある。その結果まで含めて負担が減り、例外も処理できるなら、セルフサービスを広げる根拠になる。

この一件の比較では、管理側と申請側を同じ処理件数で数えます。受け手の負担が増えたことだけで否定せず、消えた作業と追加の相談を合わせます。仮定計算の結果を引用研究の効果量と混同しないことも、比較の条件です。

人の作業時間の合計だけでは、待ちや疲労、当番の最低配置は分からない。余った時間が同じ時間帯にまとまるかも含め、総量の短縮と人員・契約支出の削減を別の判断にする。

残す余裕には、仕事がある

工程の間にある待ちや余裕を、すべて無駄と扱わない。単に承認者を待っている時間は削減候補になるが、到着が集中する依頼を吸収する余地や、異常を確認する時間までなくせば、通常運転が崩れた際の受け皿を失う。

本稿なら、余裕を残す理由を機能で説明する。ピーク時の受付、例外の相談、担当者の交代、手直しの回収などである。「念のため」という一言で全てを維持するのではなく、必要な機能を別の方法で提供できるかまで検討する。

例えば問い合わせが集中したとき、支援担当が入れるなら、全員が常時余裕を持つ以外の案がある。一方、経験者が常に別案件で埋まり、例外が来ても誰も判断できないなら、通常処理の平均時間だけを根拠に人を減らすのは難しい。

研究の読み方にも注意がある。Parkerの研究は一工場で、仕事の特性と心理的な結果に自己報告の測定を使っている。比較群も同等な条件へ無作為に割り付けたものではない。変化を追った強みはあるが、同時に起きた別の変更や測定方法の影響を完全に除けるわけではない。したがって、事務職で同じ悪化が起きると予測する材料には使わない。

実務では、作業時間の記録と本人の負担感のどちらか一方を正解にしない。平均時間が短くても、いつ呼ばれるか分からず他の仕事を中断する負担は残る。一方、慣れないという感想だけで、実際に減った重複作業を無視する必要もない。記録と聞き取りの食い違いが、次に調べる対象になる。

広げる前に、負担の行き先を三つに分ける

展開前に、消えた・移った・新しく生まれた作業を下表で区別する。これは編集上の提案であり、研究が定めた標準様式ではない。

差し戻しや支援依頼も照合し、案件数・難易度・繁忙期・人員の違いを残して比較する。合計負担が減っても特定の担当者へ集中して続けられないなら、展開条件は満たさない。総量と引受先を両方見る。

作業の変化 確かめること 展開の判断
重複入力がなくなった 後から再入力していないか 実際に消えた範囲を評価する
受付から申請者へ移った 必要情報・説明・時間があるか 引受側の負担を含めて比較する
例外の修正が増えた 原因と引受先、復旧の手段 継続的に増えるなら再設計する

習熟待ちか、設計の欠陥かを分ける

導入直後には教育や二重運用の時間がかかる。その一時費用を、通常運用の恒久的な負担と混ぜると評価を誤る。移行中に必要な仕事と、移行後も残る仕事を別に記録したい。

習熟待ちと判断するなら、何がどのように減る見込みかを示す。入力の迷いが経験とともに減るなら、支援を残して確かめる案がある。一方、必要な情報を別部署へ毎回電話しないと進められないなら、慣れてもその往復は消えない。画面、情報連携、役割の設計を変える方が先になる。

仕事が消え、残る例外を通常の体制で扱えるなら広げる。仕事が移っただけで、その先に時間も裁量もなければ再設計する。 業務改革の完了は、工程図が短くなった時点ではなく、変えた流れを人が無理なく続けられる条件がそろった時点で判断したい。

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