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エースを管理職にすると、チームは強くなるのか――昇進と報酬を分けて考える

一人で成果を積み上げる担当者と、複数の担当者へ仕事を渡す管理職を並べた図

営業成績が一番の人を、次の課長にする。本人の努力に報い、周囲にも目標を示せる。ところが昇進した後、本人が抱える案件は増え、部下の相談は後回しになった。売れる人を一人失い、育てる人も得られなかったとすれば、どこで判断を間違えたのだろう。

問題は、優秀な人を昇進させたことではない。現在の仕事への報酬と、別の仕事への配置を、一つの決定で済ませたことにある。管理職を専門職より上の身分とだけ捉えると、成果を出した人を、得意な仕事から離す制度になりかねない。ここでは高業績者の昇進を否定せず、何を確かめれば管理職へ任せる理由になるかを考える。

この記事の目次
  1. 売上の高さと、部下の成果への貢献は別の指標
  2. 高業績者を選ぶ会社にも、理由はある
  3. 昇進後に成績が下がっただけでは、失敗と決められない
  4. 管理の仕事を先に定義する
  5. 仮想例:同じエースでも、任せる仕事で判断は変わる
  6. 昇進を公平にするために、何を説明するか

売上の高さと、部下の成果への貢献は別の指標

Benson、Li、Shueの2019年の掲載論文は、米国の131社、営業職38,843人の2005~2011年のデータを分析した。対象期間に1,553人が管理職へ昇進している。現職の販売実績が昇進を強く予測する一方、管理職になった後の部下の販売実績への貢献とは異なる関係を示した。

管理職の成果は、部下の売上への寄与を、部下や企業・時期などの違いを考慮して推定したものだ。管理職を無作為に入れ替えた実験ではなく、観測データと識別上の仮定に依存する。売上以外の育成、安全、定着まで、管理の価値を網羅した指標でもない。

この研究を「売れる人は管理に向かない」と読み替えてはいけない。現在の売上を最優先する昇進方針と、管理職としての潜在的な貢献を優先する方針が、同じ候補を選ぶとは限らないという証拠である。日本の全職種に対する人物診断ではない。

高業績者を選ぶ会社にも、理由はある

昇進を業績への褒賞として示すと、今の職務で努力する動機を作れる。前掲論文も、管理職としての適合だけでなく、昇進によるインセンティブの価値を論点にしている。適合の悪い配置があるからといって、会社が何も考えていないと断言はできない。

ただし「社員をやる気にするため」という理由だけでは、異動後の損失を評価できない。部下の人数が増え、育成や調整が管理職の仕事の中心になるほど、個人の売上以外の能力を無視する費用も大きくなり得る。これは職務の違いを踏まえた編集上の推論であり、この研究が日本企業の人数別の最適基準を示したわけではない。

編集上の提案は、過去の成果に報いる決定と、次の役割を任せる決定を分けることだ。報酬の増額、専門職の等級、重要案件の権限など、管理職化以外の評価経路も比較する。専門職制度を置けば自動的に業績が上がるという実証済みの処方箋ではないが、配置と褒賞を一つに縛らない選択肢になる。

昇進後に成績が下がっただけでは、失敗と決められない

反対方向の説明もある。Lazearの2001年の理論研究は、昇進前の成績に一時的な好条件が含まれると、昇進後に成績が平常へ戻る現象を論じる。平均への回帰と呼ばれるもので、企業が合理的に選んでも、昇進後の低下を完全にはなくせないというモデルだ。

これは新しい職務への適合を問う観測研究とは、説明したい仕組みが違う。モデルが現実のすべての低下を説明したわけでもない。昇進後に数字が落ちたという事実から、直ちに「本人を見誤った」と結論しないための材料になる。

実務では、担当顧客の移動、本人が販売から管理へ使う時間の変化、部下の構成、景気も確かめたい。本人の売上が下がるのは、部下へ仕事を渡した結果かもしれない。管理職へ変えたのに、評価だけを個人売上のままにしては、仕事の移行そのものを罰してしまう。

管理の仕事を先に定義する

次の役割で何を生み出してほしいかを、候補者名より先に書き出す。納期を調整するのか、若手を育てるのか、例外的な契約を判断するのか。どれも「リーダーシップ」という一語では、見たい行動が定まらない。

ここからの提案は、候補者が他者の成果を支えた場面を集めることだ。後輩へ案件を渡した後も説明できる状態を作ったか、難しい依頼を一人で解く以外に、次から周囲が解けるようにしたか。人当たりや人気だけで評価しない。支援した相手の仕事が何に変わったかを、記録や複数の関係者から確かめる。

それでも十分な証拠がないなら、小さな代行や育成担当を置き、本人の希望と支援条件も確認する。試行の責任を曖昧にして仕事だけ増やすのではなく、任せる範囲、相談先、現在の仕事から外す範囲を決める。これは管理適性を完全に測る試験ではなく、役割の実際を双方が知る手段である。

現職の高業績から、報酬・専門職による褒賞と管理職への配置を別に判断する。次の役割の要求と他者を支えた証拠が重なるなら管理職化を検討し、不足するなら褒賞を保って育成・試行から判断し直す分岐図
概念図:編集上の判断を整理したもので、管理適性の点数や合格基準は示していません。

仮想例:同じエースでも、任せる仕事で判断は変わる

一人で難しい交渉をまとめる営業担当を考える。本人の提案が強く、他の担当者が同行しても、顧客との会話をほぼ独占する。次の課長には、若手が自分で提案を組み立てられるようにする役割を期待している。この条件では、売上順位だけで課長へ任せる根拠は弱い。本人の貢献を専門職として評価しつつ、育成を試す余地を作る案を選びたい。

条件を変える。その担当者は、提案の考え方を説明し、顧客を若手へ引き継ぎ、若手が単独で進めた案件の問題も一緒に振り返っていた。次の課長にも同じ種類の仕事が求められるなら、高い個人業績に加えて、管理へつながる証拠がある。本人が役割を望み、販売業務の一部を手放せるなら、管理職化を検討する理由は強まる。

さらに次の役割が、少人数の高度な技術営業を自ら率いる兼務リーダーなら、個人の専門性が占める割合は大きい。ただし本人の時間を使い切れば、管理は夜間へ押し出される。役割名が同じでも、期待する成果と時間配分が変われば判断は逆転する。以上はいずれも仮想例で、論文の観測事例ではない。

管理の証拠がまだないことは、将来も不適性という意味ではありません。育成を試す案でも、研修を予約しただけでは管理を任せる証拠になりません。Lacerenzaらの研究は研修による学習や職場への転移の改善を報告していますが、候補者個人の昇進成功を保証しません。専門職としての褒賞を保ちながら必要な支援行動を職場で試し、その結果から配置を判断し直します。具体的な実践の設計は管理職研修の記事で扱います。 Lacerenzaらの研究 管理職研修の記事

昇進を公平にするために、何を説明するか

業績一位を昇進させないとき、理由が「総合的に判断した」だけでは、これまで努力してきた人が納得しにくい。管理職で期待する仕事と、その証拠を説明する一方、現職の成果への評価を消さないことが大切だ。専門職の肩書を設けても、報酬や意思決定への参加が実質的に低いままなら、逃げ道としては機能しにくい。

逆に、調整が得意な人を管理職へ任せた後、その人自身の販売実績の低さだけで批判しては、選んだ基準を後から変えることになる。管理への配置を決める側は、育成、引継ぎ、問題の解決など、約束した仕事の成果を追う責任も持つ。

現在の高業績だけで管理職へ任せる理由にはしない。他者を支える仕事の証拠と、次の役割の要求が重なるなら昇進を検討する。重ならないなら、現職への褒賞と育成の機会を分ける。 高業績者の価値を下げるのではなく、その価値をどこで生かすかを決めるための考え方である。

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