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NPSが上がったのに、顧客は戻らない。サービス改善の成功を一つの点数で決めないために

顧客の評価を表す吹き出しと、再び店へ戻る顧客の経路を分けて確かめる拡大鏡

サポート担当者の説明を丁寧にし、対応後のアンケートの点数が上がった。顧客に喜んでもらえたようだ。ところが翌月、契約更新は増えていない。評価が上がったことは無意味だったのか。それとも、継続利用に表れるまで時間が必要なのか。

サービスの印象と、顧客が実際に続けて利用することは、関連していても同じ現象ではない。NPSは顧客の声を読む入口になるが、その上昇だけで継続利用や利益の改善を確認したことにはならない。 捨てるか、唯一の指標として信じるかの二択から離れ、どの判断に使う数字かを決めたい。

この記事の目次
  1. NPSは、何を足し引きしているか
  2. 「成長を最もよく予測する」は再現できたのか
  3. 反対方向の材料もあるが、測っている単位が違う
  4. 点数の変化より先に、誰へ聞いたかを見る
  5. 仮想例:同じ点数上昇でも、選ぶ対応は変わる
  6. 不満の理由と、取引の結果を結ぶ
  7. 点数を捨てる前に、使う会議を変える

NPSは、何を足し引きしているか

Bainの算出説明では、他者へ勧める可能性を0~10で尋ね、9・10の回答者の割合から、0~6の回答者の割合を引いてNPSを求める。7・8はどちらの割合にも入らないが、回答者全体という分母には含まれる。

これは満足度の平均値でも、実際に推薦した人の割合でもない。「勧めるつもり」という回答を区分して、差として要約した数字である。算出方式を示すBainは、この仕組みを提唱・普及する側でもある。測り方の説明と、他の指標より成長をよく予測するという主張は、同じ強さの根拠として扱わない。

仕組みを理解するため、架空の100回答を考える。推奨者50人、批判者20人ならNPSは30。別の調査で推奨者60人、批判者30人でもNPSは30になる。点数は同じでも、両端の回答者が増え、中間の回答者が減っている。これは実測値ではなく、同じ差が異なる構成から生まれる計算例だ。調査間の差の統計的な確かさを示した計算でもない。NPSを見るなら、元の回答分布も残したい。

各100回答の仮定で、推奨者50人・中間30人・批判者20人と、推奨者60人・中間10人・批判者30人は、ともにNPS30になる。人数を区分別に描き、同じ点数でも回答分布が異なることを示す比較図
仮定の比較図:各100回答。棒の長さは回答人数を示します。点数が同じでも構成は異なります。研究の実測値・改善の効果・統計的な有意差は描いていません。

「成長を最もよく予測する」は再現できたのか

Keininghamらの2007年の縦断研究は、ノルウェーの顧客満足度データを使い、21社と15,500件を超えるインタビューを分析した。米国の顧客満足度指標との比較も行い、推奨指標が他の指標に対して明らかに優れているという主張を再現できなかった。

これは、NPSがどの職場でも役立たないという結論ではない。企業単位の売上成長を予測する力の比較であって、顧客の不満を聞く会話の価値や、特定の対応を改善する効果を直接測った実験でもない。観察データなので、点数を上げれば売上が伸びるという因果効果は決まらない。

また、過去の海外企業の分析から、日本の法人向けサービスの更新率まで同じ結論にできない。だからこそ、唯一の数字として採用する前に、何を予測したいかを限定する必要がある。顧客の声の要約として使うことと、収益の代替指標として使うことを分ける。

反対方向の材料もあるが、測っている単位が違う

Mecredyらの2018年の研究は、ニュージーランドの一次産品分野の法人向けサービスを扱う。公開抄録では、推奨者の現在年の支出が大きい一方、同じ顧客からの増収は推奨者だけに集中せず、他の顧客区分にも広がると報告している。ここでは抄録から確認できる範囲を使い、推奨者の翌年の購買額まで大きいとは読み替えない。

好意的な顧客が多く買う関係は、指標を全面否定する説明への反証になる。しかし「高得点の人が多く買う」と「同じ人の点数を上げれば購買が増える」は別だ。多く利用したから勧める気持ちが強まった可能性もある。さらに、顧客個人の購買額と、企業全体の成長率は異なる測定対象である。

前の研究と優劣を争わせるより、単位の違いを使い分けるのがよい。会社全体の点数が上がったことだけで、契約更新の改善を主張しない。同じ顧客について、回答した後に何が起きたかを追えれば、NPSの役割を具体的に確かめられる。

点数の変化より先に、誰へ聞いたかを見る

ここからは研究を踏まえた編集上の提案である。改善前後を比べるときは、対象顧客、回答する時点、依頼方法、回答の有無をそろえる。サポート直後の評価と、契約更新前の評価は、同じ問いを表示しても違う経験を反映する。

例えば新しいアンケートでは、対応が完了した顧客へだけ依頼し、途中で離脱した顧客には届かないとする。点数が上がっても、困ったまま去った人の声が比較から消えた可能性がある。回答率を上げる施策で新しい層が答えるようになった場合も、点数の変化を対応品質の変化だけへ帰属できない。

「前回より何点高い」で報告を止めず、同じ条件の顧客が含まれているかを読む。回答者数が少ない場合、数人が区分をまたぐだけでNPSが大きく動く。全国共通の合格点を置くより、対象と不確実性を示す方が、その数字で何を決められるか分かりやすい。

仮想例:同じ点数上昇でも、選ぶ対応は変わる

法人向けソフトのサポートを考える。操作方法が分からない顧客へ、手順を短く説明するように変えた。対応後の推奨意向が改善し、同じ種類の顧客で、問題の再問い合わせも減り、更新時に困っていた業務を続けられている。この場合は、説明の改善を継続する理由がある。ただし、前後比較だけなら他の変化もあり得るので、因果効果の大きさまで断定しない。

条件を変える。担当者が高い評価を依頼する言い方へ変え、点数は上がったが、未解決の問い合わせと解約は減らなかった。ここでは評価の上昇を理由に表彰や全面展開を進めない。聞き方を点検し、解決できていない課題へ戻る。数字を動かす対応と、サービスをよくする対応が分かれている。

さらに、顧客がサービスに満足していても、予算削減で契約を更新できない場面を考える。解約が増えたことだけで担当者の応対を失敗扱いしてはいけない。価格、利用範囲、契約条件の問題として、判断を担当部門へ渡す。いずれも架空の例であり、研究の観測事例ではない。

不満の理由と、取引の結果を結ぶ

NPSの後に自由記述を聞くなら、低得点者だけを分析の対象にする必要はない。高得点でも解約する人、中間の評価で継続する人を見れば、点数だけでは見えなかった条件があるかもしれない。未回答者についても、分かる範囲の利用状況や更新結果を分けて確認する。

顧客別の対応付けは、必要な権限と情報の取り扱いを定めた上で行う。アンケートを集めたから何にでも利用できると決めつけない。集計の目的が個人の査定へ変わるなら、提供する説明や管理の仕方も確認する。本稿は特定の法的処理を指定するものではなく、分析の目的を途中で変えないという運用提案である。

また、顧客が言った理由をそのまま唯一の原因と見なさない。「使いにくい」の内容を、問い合わせ、利用の中断、契約の結果と照らす。値引き後に点数が改善しても、提供費用が増え、採算が悪化するなら、サービス全体の成功とは別に考える必要がある。

点数を捨てる前に、使う会議を変える

NPSが売上を万能に予測しないからといって、調査を直ちに廃止する必要はない。顧客体験の変化を知らせ、詳しく聞く対象を探す用途には、共通の問いが役立つ可能性がある。その価値は、将来売上の予測力だけとは別に評価したい。

一方、予算配分や担当者の報酬までNPS一つで決めるなら、回答の取り方を変える誘因が生まれる。現場へは、点数の説明と、どの課題を誰が直すかを求める。事業側は、解決の状況、継続・購買、対応費用を別に持つ。会議で指標をたくさん並べることではなく、それぞれが答える問いを決めることが重要だ。

NPSは顧客の声を詳しく聞く入口として使い、サービス改善の成功は、同じ条件の顧客で問題が解決し、継続や購買に何が起きたかで判断する。点数だけ上がった場合は成功判定を保留し、回答構成と聞き方を先に確かめる。 顧客の評価を軽く扱うのではなく、評価と行動の両方に答えるための使い分けである。

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