新システムが使われない原因は? 研修・機能・運用の切り分け方
新システムを導入して説明会も開いたのに、現場は以前のExcelへ戻ってしまう。定着しない原因は、操作を知らないことだけではありません。本稿では、返品申請の仮想例と研究を使い、追加研修で対応できる問題、機能を直す必要がある問題、権限や承認の流れを変える問題を分けて説明します。
この説明用の場面で、追加研修が悪いとは限らない。ただ、使い方を知らないことと、使っても必要な仕事を終えられないことは別の問題である。後者に操作説明を重ねても、利用者が迂回する理由は残る。
本稿では、支援を受ければ完了できる仕事には練習を、詳しい人でも終えられない仕事には機能や業務の修正を、操作は終わるのに処理が進まない仕事には権限と受渡しの変更を先に選ぶと提案する。利用率を上げることより、何が完了を妨げているかを一件ずつ分けたい。
この記事の目次
クリックできるかではなく、仕事が終わるか
例として、返品申請の新システムを考える。利用者が返品理由の選択肢を見つけられず、入力を中断している。横で案内すると、自分で申請を終えられ、次の同種案件でも進められるなら、操作の理解や練習を改善する意味がある。
条件を変える。部分返品の際に数量を入力する欄がなく、熟練者も別紙を添えないと処理できない。ここでは説明が足りないのではなく、必要な取引を表す方法が足りない。追加研修の予算を、項目や後続処理の修正へ移す方が問題に対応する。
さらに、入力も送信もできるのに、承認先が決まらず止まる場合がある。このとき利用者の習熟を上げても、待ち時間は残る。承認の役割と代理の扱いを決める必要があり、画面の使いやすさだけで原因を説明できない。
三つとも架空例である。同じ「使われない」を、画面の操作、業務への適合、運用の受渡しに分けるために置いた。現場を観察するときは、利用者だけでなく、その後に仕事を受け取る人まで追うと違いが見える。
この返品の経路で止まった場所を見れば、操作習得、データや機能、権限と承認のどこへ支出するかを分けられます。詳しい担当者の手作業で通った処理は、自力完了に数えません。入力から受渡しまで確かめ、研修で解けない不足を受講者の責任へ戻さないようにします。旧方式を止める範囲は移行の境界の記事で別に検討します。 移行の境界
利用回数が多いことさえ、成功とは限らない
GoodhueとThompsonの1995年の論文は、情報技術が個人の成果に寄与するには、利用されることに加えて、支える仕事との適合が必要だというモデルを示し、その中心部分を検証した。使う頻度だけから成果を推定しないための基礎になる。原論文の出版社要旨
また、学習管理システムを使う教員を扱った研究は、仕事と技術の適合や、本人が認識する成果への影響を調べている。適合が悪い場合には利用が減ることもあれば、問題を回避するために多く使うこともあると報告する。利用量との関係は単純な一直線ではない。著者所属大学の研究要旨
後者は教育現場の調査で、企業の受注業務の客観的な生産量を測った実験ではない。自己評価を含む結果から、「利用回数が多い人ほど仕事が遅い」と逆向きに断定することもできない。
それでも、ログの読み方は変わる。何度も同じ画面へ戻っている人を熱心な利用者として数える前に、入力をやり直していないかを見る。利用回数が少ない人も、習熟して短く終えているのか、別の方法へ逃げたのかを分ける。同じ数字に逆の事情が入り得るためである。
研修が効く場面はある。ただし、受講と習得を分ける
KeithとFreseの2008年のメタ分析は、24研究・計2,183人の結果をまとめ、探索しながら誤りから学ぶ訓練に、比較対象に対する平均的な効果を報告した。特に、訓練とは異なる新しい課題への応用が論点となっている。論文要旨
返品の例なら、説明を聞いた直後に同じ画面を再現できるだけでは不十分である。安全な練習環境で、入力を間違えた後に修正する、別の返品理由でも処理する、といった課題を扱う案がある。これは研究を踏まえた研修設計の提案であり、この返品研修自体が実験済みということではない。
「詳しい人ならできた」で終わらせない
使いやすいと感じることにも、別の注意点がある。2013年の意思決定支援システムを使った94人の統制された実験では、個人に合う技術を、実際の課題成績への寄与以上に有用と捉える場合が示された。態度、技術の使いこなし、課題そのものの成果は区別されている。原論文の出版社要旨
詳しい人が仕事を完了できても、その人が不足情報を記憶していたり、別の権限を持っていたりすれば、一般利用者との差は操作技能だけではない。横で代わりに処理してもらえたことを、研修で解決する証拠にしない。
案内する側は、画面外で何を補ったかを記録する。顧客コードを知っていたのか、非公開の手順書を見たのか、管理者として入力を修正したのか。追加したものを隠したまま比較すると、使えない原因を利用者の能力へ押し付けることになる。
旧方式を止める日は、受講率だけで決めない
旧方式を残す範囲や切替の単位を詳しく考える場合は、一斉移行と段階的なシステム移行の記事へ進めます。操作の習得とは別に、新旧の境界と業務の受渡しを扱っています。
新しい仕組みへ切り替えるには、旧方式をいつまで残すかも決める必要がある。いつでも戻れるままなら利用が定着しないことは考えられるが、使えない取引が残っている段階で禁止すれば、仕事そのものが止まる。
本稿では、日常的な案件と重要な例外について、通常の担当者が必要な支援の範囲で完了できるかを移行判断に使う。未対応の例外は担当と期限を持つ暫定手順へ分け、誰も責任を持たない個人の表計算に埋めない。
例えば、通常返品は自力で処理できるが、海外向けの特殊条件だけが未対応なら、その例外を分離できるかが判断点になる。影響を限定できれば通常案件の切替を進める案がある。金額計算を共通で誤るなら、例外として切り離せず、広い範囲の修正が先になる。
次の予算を、原因に対応する場所へ配る
導入後の報告は、受講者数、ログイン数、処理の完了を分ける。研修を増やしたなら自力で扱える仕事が増えたか、機能を直したなら迂回や再入力が減ったか、運用を変えたなら送信後の待ちが短くなったかを確かめる。
比較する案件の難しさや担当者が変われば、前後の差だけで対策の効果は特定できない。可能な範囲で同種の仕事を比べ、支援者が代わりに処理した時間も残す。指標を追加する目的は採点ではなく、次の対策を間違えないことである。
学べばできることには練習を、学んでもできないことには設計変更を配る。 現場が新システムを使わない理由を、意欲や習熟だけで説明する前に、一件の仕事が止まる場所を見たい。追加研修を選ぶべきかは、その先で初めて分かる。