顧客の待ち時間をどう改善する? 進捗表示と処理短縮の使い分け
画面には「処理中」と出ている。利用者には、申込みが届いたのか、順番を待っているのか、何かを直す必要があるのか分からない。数分が長いというより、次に何をしてよいか決められないことが困る。
そこで詳しい進捗を見せれば解決するだろうか。作業が見えることでサービスへの評価が変わる研究はある。しかし、それを「待たせても説明すればよい」と読むと、改善の順序を間違える。取り除ける待ちは減らす。必要な待ちには、現在地と次の行動が分かる情報を付ける。 本記事では、この使い分けを考える。
この記事の目次
「速い」と「価値がある」は、同じ評価ではない
BuellとNortonの2011年の研究は、模擬の旅行検索などを使い、作業の様子を見せるかどうかでサービスの評価が変わる条件を調べた。同じ結果でも、工程が見える待ち時間を含むサービスが選ばれる実験がある。測っているのは主として知覚された価値や選好であり、顧客の仕事が速く終わったことではない。Buell & Norton「The Labor Illusion」
この区別は業務サービスで重要だ。審査に手間を掛けていると感じても、結果が締切に間に合わなければ使えない。丁寧そうに見えたことと、必要な時刻までに完了したことを同じ成果指標にしない。
また、模擬サービスで得た選好を、日本の法人顧客の継続契約へ直接置き換えることはできない。検索の短い待ちと、数日かかる申請審査では、待つ間の損失も別の行動を取れる余地も違う。研究は、速度だけで評価が決まらないことを示す材料として使いたい。
ただし、同じ2011年の研究でも、結果が好ましくない模擬の相手探しサービスでは、工程の可視化が価値評価を下げた実験があります。旅行検索での好ましい結果だけを借りて、待ちを見せれば常に評価が上がるとは判断できません。
この結果から、悪い情報を隠すべきだと結論するのも適切ではない。実務では、期待した結果が出なかった理由や次の選択肢を伝える必要がある。頑張った様子を強調して納得を求めるより、何ができず、代替の手段があるかを説明する方へ切り替えたい。
また、研究の模擬画面を、そのまま実サービスの演出例として使わない。実際には終わった処理を動いているように見せたり、価値を高く感じさせるために結果を遅らせたりする提案ではない。測定された心理的効果と、利用者へ正確に案内する方針を分けて扱う。見せる内容の正しさは、満足度の上昇と引き換えにできる項目ではない。
最初に、待ちが生まれる場所を分ける
待ちには、必要な確認を実行している時間、担当者の順番を待つ時間、利用者の追加情報を待つ時間がある。全部を「確認中」にすると、改善策も曖昧になる。工程を表示する前に、実際の状態を区別できる記録が必要だ。
作業の重複や引継ぎ漏れで止まっているなら、表示の精緻化より、重複をなくすことや担当を決めることが先になる。利用者の返答待ちなら、何が不足し、どう提出すれば再開するかを知らせる方が役立つ。説明を増やすこと自体を目標にしない。
ここからの選び方は編集上の提案である。現在の表示を読んだ利用者が、「待ってよい」「別の仕事へ移ってよい」「自分が提出する必要がある」のいずれかを判断できるかを確認する。どの行動にもつながらない詳細は、まず掲載の必要性を問い直したい。
社内の専門用語をそのまま見せても、この目的は満たしにくい。「第二区分へ移送済み」より、「書類を受け付けました。追加提出は不要です」の方が、利用者の疑問に答える場合がある。内部工程の完全公開と、利用者に必要な説明は同一ではない。
見せる相手が変われば、働く仕組みも変わる
Buell、Kim、Tsayの研究は、飲食サービスで顧客と働く側の見え方を変えるフィールド研究と実験を扱っている。顧客が工程を見ることだけでなく、働く側が顧客を見ることも含む設計である。顧客による評価と処理時間の両方を扱っており、単にウェブ画面へ進捗バーを置いた研究ではない。Buellほか「Creating Reciprocal Value Through Operational Transparency」
したがって、見える化で良い結果が出たという見出しだけを使い、どのサービスでも表示を増やせば処理が速くなるとは言えない。対面で相手の反応が伝わる仕組みと、機械的な進捗通知は分けて考える必要がある。
実務で取り入れるなら、表示の追加が何を変えるのかを一つずつ確かめたい。重複問い合わせを減らすのか、追加提出の遅れを減らすのか、待つ間の不安に答えるのか。目的が異なれば、評価すべき結果も異なる。
予測できない残り時間を、正確そうに見せない
たとえば実作業の量を把握できていないのに、「あと三分」と毎回表示すれば、具体的ではあっても信頼できる案内にはならない。進捗率も、済んだ工程の個数と残る処理時間が比例しないなら、残り時間の代わりとして読ませない方がよい。
予定が変わるサービスでは、完了見込みだけでなく、次に状況を知らせる時点を示す方法がある。確定した期限ではないものをそう表示し、遅れが分かった際には表示を更新する。これも万能な表示方式の実験結果ではなく、誤った期待を作らないための提案である。
利用者が画面を開き続ける必要がない仕事なら、完了時に受け取れる通知を用意することも選択肢になる。ただし通知を許可しなければ状況が分からない設計にせず、受付番号などから自分で確認できる経路も残したい。
審査の待ちと、資料不足の待ちでは答えが逆転する
以下は架空の法人サービスの例である。申請後、担当者が必要な書類を照合しており、利用者には追加作業がない。この場合は、受付済みであること、今は何の確認をしているか、次の連絡の目安を示す。問い合わせるべきか迷う負担に対応するためだ。
ところが、同じ申請でも資料が不足して止まっているなら、「確認しています」と安心させる表示は適切ではない。不足資料と提出方法を知らせる案へ変える。待つことを勧める表示が、かえって完了を遅らせるからである。
さらに、資料は揃っているのに部署間の引継ぎで放置されているなら、担当を決めて処理を再開する方が先だ。進捗画面を増やしても、この停滞は解決しない。遅れている事実の説明は必要だが、説明したことを改善の完了にしない。
三つの場面で共通するのは、実態に合う情報を伝えることだ。違うのは、その先に待機、提出、提供側の是正という別々の行動があることだ。この対応が見えれば、何を表示するかの議論が具体的になる。
進捗表示が増やす再問い合わせを、成功から除かない
進捗表示の効果を見るときは、予告した時刻を過ぎた後の再問い合わせも数える。予測が難しい段階なら、確かな根拠のない完了時刻より、次に連絡する条件や利用者が提出すべき資料を示す案を比べる。表示による満足と、実際の完了や受付負担を別に評価する。
表示の成功を、満足度だけで決めない
画面を変えた後は、受付から完了までの時間、途中離脱、同じ案件の再問い合わせ、必要資料が揃うまでの経過を、目的に応じて分けて見る。問い合わせが減っても、諦めて離れた人が増えたなら成功とは言いにくい。
一方、問い合わせが増えることを直ちに失敗ともしない。追加提出が必要だと初めて分かり、確認の連絡が増えた可能性がある。件数だけでなく、何のための連絡が増減したかを読む。前後の比較では、申請の難しさや混雑状況の変化も含めて考える必要がある。
利用者に持ち帰ってもらいたいのは、「待たされても納得する技術」ではない。完了まで何が必要で、いま自分が動く必要があるかが分かることだ。減らせる停滞を直し、残る待ちに次の行動を添える。その順序で、進捗表示を実際のサービス改善へ結び付けたい。