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チェックリストでミスが減らない:項目より確認手順と権限を見直す

出荷箱の前で確認用紙を持つ担当者と、作業を一度止める開いた手

誤出荷の後、確認表に項目が一つ増える。担当者は全てに印を付ける。それでも次の月に同じ誤りが起きると、「確認が足りなかった」として、もう一段の承認を加える。こうして書類は厚くなるが、間違いを見つけた人が出荷を止められないという事情は変わっていない。

チェックリストは、重要な行動を忘れずに実行する助けになり得る。しかし、必要な情報がない、設備が使えない、違いに気付いても止められないという問題は、確認欄だけでは解消しない。抜けていた確認が原因なら項目を見直し、確認後に動けないことが原因なら業務の流れを変える。この違いを、相反して見える研究結果から考える。

この記事の目次
  1. 送り先の照合は、どこで止まっているか
  2. 同じ用紙でも、同じ改善が得られるとは限らない
  3. 何を比べ、違ったら誰へ渡すかを項目にする
  4. 印の数より、発見した後の処置を見る

送り先の照合は、どこで止まっているか

第一は、必要な行動を忘れる問題である。最新の注文書と送り先を照合する必要があるのに、作業が立て込むと抜ける。ここでは、送り状を確定する前に照合する項目を置く意味がある。対象、参照する情報、実施するタイミングを具体的にする。

第二は、確認に必要なものがない問題だ。最新の注文書が別部署のメールにしかなく、担当者が参照できないなら、「最新情報を確認」と書いても仕事は成立しない。情報の受け渡しや参照先の整備が先であり、確認表の追加ではその欠落を埋められない。

第三は、異常を知っていても修正できない問題である。出荷先が違うと分かっても、締切優先で止める権限がない。担当者が印を付けたかだけを点検しても、発見が事故防止につながらない。保留する条件、確認先、不在時の代行を決める必要がある。

同じ「確認漏れ」という報告に、この三つが混在することがある。再発防止で最初に読みたいのは未記入欄の数ではなく、実際にどの段階で正しい行動ができなくなったかである。

確認の抜け、情報の不足、異常時に止められない問題を分け、それぞれ項目、情報経路、保留と判断の運用を変える図
概念図。医療研究の効果量を一般業務へ適用したものではありません。

項目を増やす判断が妥当になる場合もある

架空の通販会社が、送り先の間違いを減らそうとしている。調査すると、住所変更がある注文だけ、旧住所の送り状が残ることが分かった。作業者は最新情報を参照でき、違いがあれば止める権限もあるが、変更注文を照合する行動が手順から抜けていた。この場合は、新たな確認点を追加する案が合理的である。

一方、既存の項目で違いは発見されていたが、保留すると評価が下がるため、そのまま流していたとする。ここで確認者を一人増やしても、二人とも同じ圧力を受ける可能性がある。優先すべきは、誤りが疑われる注文を止める扱いと、保留中の判断経路を変えることだ。

さらに条件を変え、正しい住所の確定が顧客の返答待ちだとする。この場合、担当者に「確実に確認して」と求めても答えは出ない。未確定として保留し、顧客へ確認する仕事が必要になる。確認を終えたことにして出荷するより、未完了を見える形で残す方が目的に合う。

選ぶ案が変わるのは、同じミスが起きたかどうかではない。必要な行動が抜けたのか、行動に必要な情報がないのか、発見後の処置が妨げられたのかという原因の違いである。

同じ用紙でも、同じ改善が得られるとは限らない

照合を忘れた場合と、分かっていても止められない場合では、同じ確認表を配っても変わる仕事が違う。医療の二つの研究を読むときも、用紙の導入と確認の実施を分けたい。

Haynesらの2009年の研究は、国や医療環境の異なる8病院で、手術安全チェックリストの導入前後を比較した。入院中の死亡や合併症の減少を報告しており、チェックリストが安全改善に役立つ可能性を示した。ただし、無作為に導入群と非導入群を割り当てた試験ではない。Haynesらの原論文

一方、Urbachらが2014年に発表したカナダ・オンタリオ州の研究では、101病院における導入前後各3か月の手術データを分析したが、死亡や合併症の有意な減少とは関連していなかった。大きな規模で導入したからといって、先の改善が同じように現れたわけではない。Urbachらの原論文要旨

ここから「チェックリストは効かない」とするのも、「使い方が悪かっただけ」と片付けるのも早い。比較した地域、施設、導入の取り組み、元の状態、データの集め方が異なる。前後比較には同じ時期の別の変化が影響する可能性があり、有意差がないことも、あらゆる条件で効果がゼロだという証明ではない。

両研究は医療の客観的な転帰を扱っている。一般企業の事務ミス削減率や、確認者の安心感を測ったものではない。本稿では医療での効果量を出荷や経理に移さず、「導入した」という事実と、狙った行動が実行されることを分ける材料として使う。

改善率と、実際に行った確認を分けて読む

Haynesらの8病院での導入前後研究では、合併症の割合は11.0%から7.0%、院内死亡は1.5%から0.8%へ低下した。合併症の差は4.0パーセントポイント、相対的には約36%減である。原論文の結果は、患者を無作為にチェックリスト有無へ割り当てた試験ではなく、導入の前後を比較したものだ。

一方、本稿で取り上げたOntarioの研究では、病院への導入後に死亡や合併症の有意な低下は見られなかった。「用紙が同じだから平均的には効果がある」と二研究の数字を混ぜるのではなく、実施した中身と測定の条件へ戻る。声に出した確認、関係者の参加、異常時の停止が実際に行われたかと、導入したという行政上の記録は同じ証拠ではない。

事務処理へ移せる候補は、関係者の情報を処理の前にそろえるという機能である。例えば送金前に、入力者とは別の情報源で口座を確認し、不一致なら保留する。医療の4.0ポイント低下を送金事故の削減見込みへ流用することはできない。止めた件数と、本当に不一致を見つけた件数を区別して、自社の結果で評価する。

確認する時点と、答えを受け取る相手がある

WHOの2009年の実施手引きは、単に用紙を配る説明ではない。手術の特定の時点でチームが確認することや、調整役を置くこと、現場に合わせた実施を扱っている。実施を支える参加、教育、フィードバックなども示している。WHO実施手引き

この手引きを読んでも、「読み上げさえすれば成果が出る」という因果効果は得られない。声を出すこと自体が目的ではなく、必要な相手がその時点で情報を共有できるかが問題だからだ。また、先の二つの研究の差を、これらの実施条件だけで説明できたわけでもない。

業務へ応用する際には、確認を仕事のどこへ差し込み、違いが見つかったら誰が何をするかまで設計する。以下は、そうした資料を踏まえた編集上の提案であり、一般事務で検証済みの万能な手法という位置付けではない。

何を比べ、違ったら誰へ渡すかを項目にする

確認項目を直すなら、「内容に問題がないか」だけでは判定が広すぎる。何と何を比べ、違いがあった場合には何を記録するかまで絞る。例えば「送り状と確定済み注文の送り先を照合し、不一致は保留」とすれば、少なくとも求める行動と次の処置は分かる。

ただし、具体化すれば項目はいくらでも増やせる。既存の仕組みが確実に防いでいる誤りまで重ねて確認するのか、形式的な点検が重要な項目を埋もれさせていないかも見直したい。自動照合へ移せる場合でも、例外として何が人へ戻るかを決めなければ、未処理が別の場所へ移るだけになる。

読み上げは、複数人が異なる情報を持ち、その場で認識を合わせる必要がある場面で候補になる。一人で資料を照合する作業まで一律に声を出す方式へ変える根拠は、ここで扱った研究からは得られない。方式を統一する前に、情報を誰へ届ける必要があるかを考える。

後からまとめて印を付けていないか

作業後に記憶を頼りに全項目を埋める運用では、実行前の誤りを止める機会が失われる。監督者が見るべきなのは用紙の体裁だけでなく、いつ参照し、何を照合し、不一致にどう対応したかである。全員の全作業を監視するという意味ではなく、問題が起きた工程を具体的に観察する。

その際、「なぜ守らなかった」と責めるだけでは、利用できない情報や現実的でない順序が見えにくい。実際の作業と手順を並べ、必要な確認を実行できる位置へ移す。記録を減らす案も含め、誤りを止める機能を残して負担を整理することができる。

印の数より、発見した後の処置を見る

導入後は、記入率に加え、どんな不一致を発見し、どの時点で修正できたかを見るとよい。発見件数が増えても、以前見逃していたものを拾っているなら、単純な悪化とは言えない。一方、全件に印があっても、照合した形跡がなく、誤りが後工程で見つかるなら、運用を確かめる必要がある。

停止できるようにした結果、保留が滞留する場合もある。それは確認を止める理由ではなく、回答や承認を返す側の能力と期限を見直す材料になる。見つける仕組みと、見つけた後に解決する仕組みを一緒に扱う。

チェックリストを良くすることは、項目を増やすことと同義ではない。見落としが原因なら、適切な場面に具体的な確認を置く。情報や権限が欠けているなら、先にその欠落を直す。確認できなかったものを「できなかった」と残し、必要な処置へつなげられることが、記入済みの用紙より大切なのである。

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